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2024/11/23 20:49 |
Love is blind サンプル



「Love is blind」
*サンプル*


*再録本『and I Love You』に収録
*サンプルは続きからどうぞです*



************************************




「Love is blind」













 
(中略)


眼鏡を欠いた白くぼやけた僕の視界では、よほどの至近距離でなければまともに物を捉えることは出来ない。顔の上半分だけブランケットから出して覗いてみれば、ベッド端から少し離れたキッチンのカウンターへ赴くグラハムの後姿を、シルエットの形で視神経が伝えた。

 モーニン、彼に掛けた言葉は欠伸に取って変わられて上手く伝わらなかったが、彼はひらひらと手を振ってくれたように見えた。とは言っても頼りない視力が伝えることなので定かではない。
僕は上半身をベッドの上に起こした。幸い下は履いているけれども、上は裸のままだ。
 嗚呼シャツは…、後で着よう、どうせ床にでも落ちているのだろう、と昨夜彼に跨られて剥ぎ取られたのを頭の隅で思い出した。嗚呼、昨夜も今朝も、グラハムは容赦なかった。セックスのみならずモーニングコールすら力で訴えてくるなんて。
「ねぇ、ここはもっと優しく起こしてくれても良いんじゃないのかい?」
 キッチンでどうやら湯を沸かしているらしい後姿に嘆きをぶつけたが、低く艶めいた声は、ほぅ?と鼻で笑ってこちらを振り向いたようだ。
「私がキスで起こす相手は、麗しい眠り姫と決まっていてな、」
高飛車ぶった声音は鼻で僕を笑っているのだろうか。どうにも裸眼では表情は定かではない。
 髭もそのままのむさ苦しい男相手にキッスができるほど私も生憎人格者ではないな、とグラハムは笑いながら続けるけれど、僕は起き抜けで剃ってないだけだし、数週間前に無精髭姿の僕に可愛く挑んできたのはどこの誰だったろうかと思う。 
あれは今月の初めだったろうか。三日に渡る缶詰の果て、夜勤明けのラボで僅かに髭が伸びて少々ざらついた僕の顎に積極的に噛み付いてキスをせがんで来たのは誰だったろうか。
 白々と夜が明けかけてグレーがかった薄いパープルのような色味の空をグラハムの背後に目にしながら、上気した彼を宥めてソファへ逃げた。
部下を帰らせて数時間経過したそこは、サーバーが時折唸っては僕らに警告を発していたのだけれども、仮眠用のソファで事に及ぶのが背徳めいていてまた興奮した。
視界に映るのは目を通し切れていない書類の束とデスク、部下が明日補充しますねと言っていた中身の減ったキャンディボックスと、グラハムのフライトデータとフラッグの改良データを比較しシミュレーションさせている端末だとか、書類から剥がれたのか捨て損ねたのかカーペットに点々と散らばるカラフルなポストイットだった。
ごく当たり前にある職場の物達の中で、熱っぽく僕を見る彼の視線やお互いの動物染みた息遣いに、二人揃ってどうにかなっていた。職場をメイクラブの場に選ぶなんて彼らしくなく、珍しいこともあるものだ。グラハムは、まだ髭剃ってなくてごめんねと言う僕のざらついた顎に舌を這わせて唇を塞いだ。
 それから下肢を押し付けては、最近シフトが合わないなと拗ねながら強請っては、僕のベルトに指を這わせ、ファスナーの上から握りこむとやがて熱を持った僕のそれを引きずり出したのだ。
それにしてもあんな可愛いことどこで覚えてきたんだろう。
 グラハムもどうかしていたのかもしれない。
 最後まではしないよと囁いてやれば、非難めいた眼差しを寄越された。
 じゃあ次の休みは合わせるからねって宥めて……、嗚呼そうだ、それでやっと合わせた休みだったんだ。












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2008/11/03 23:24 | オフライン

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