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2024/05/19 16:58 |
真夜中のひとりごと。 (ビリグラSS)



真夜中のひとりごと。 (ビリグラSS)



ペーパー用SSに加筆修正したものです。
ペーパーの時点ではオフ本『Shine』のその後、の体裁になっていましたが、
修正して別個のお話のようになっています。

つづきから、どうぞです。





真夜中のひとりごと。 (ビリグラSS)









 

 
 
またやっちゃったねぇと不意に呟いて、今更ながらに気がついた。
 
 
 
 
この馬鹿げた状況について僕が考えを巡らせるときは、決まって複数形のSが付属する。
そしてその複数形の相手というのは、今宵も僕の肩先に頬を押し付けながら規則正しい眠りをやる大切な友人だ。
 
因みに馬鹿げた、というのは男二人が恋人同士に酷似した夜を迎えて濃厚なセックスまでやらかしているという点であり、何気い呟きに「また」が付属する程度には僕らは回数を経ていた。
 海馬が限界まで蓄積してくれた情報は僕らがどうしようもなく学習能力を放棄していることと、避けようと思えば避けられる事態を率先して行っていることを証明してくれているわけで、全くもって僕らは本当にどうしようもなかった。
まぁ気持ち良い事は誰しも嫌いじゃないだろう、寧ろ好きだけれども、それでもこの状況は如何なものだろうか。
 
 
そっと息を着けば、肩口にかかる荷重が僅かに動いて彼が身じろぐのを伝えた。
嗚呼ごめんね起こしちゃうかも、と思いながら首を捻って金色のくしゃくしゃの髪の下を覗いてみれば、彼が鼻先を僕の二の腕に擦り付けている最中で、思わず口元が緩んだ。
空いた腕を伸ばして指先を彼の髪にくぐらせながら、癖の強いそれを梳いてやる。気持ちが良いのかグラハムの規則正しい呼吸は更に安らいで、その上あむ、と確かに僕の柔肉を口に含んだようだ。二の腕に感じる濡れた感触にしょうがないなぁと思いつつ、それでも肩を揺らせず息を殺し、彼の眠りを妨げないよう最大限の努力をする自分を滑稽に思う。
嗚呼、何で僕ら、こんなことになってるんだろう。
 
 
 
諾々と送る日常に降って沸いたように始まったこの非現実的な夜が、僕にじわじわと浸蝕してどれ程が過ぎただろう。
ランダム且つある種の法則性をもっているかのように彼が僕の部屋におしかけ、引きずるように僕をベッドに押し倒す夜はいつになったら終わりを迎えるのだろう。
 回数を数えるのも馬鹿馬鹿しくなってやめてしまっているが、こうした夜の過ごし方に僕は未だに慣れることが出来なかった。
 その癖抵抗すれば良いものを、毎度流されてはそのまま据え膳を素直に頂く僕自身もどうかしている。
 僕を雄々しく押し倒し、果敢に求めて来る彼を無下に断ることもできず、押し付けられる体温に飲み込まれている。それでいてその、彼は非常に不器用で、僕のシャツのボタンをスマートに外すことさえままならない。ならば幾分協力してあげたくなるのも人情というもので、けれど彼に任せては互いに流血沙汰すら起こりうるわけで、と僭越ながら僕がリードしているのも不可抗力故だ。

 そうだ、不可抗力だ。
 嗚呼もう、この際そう思わせてくれないか。
 
 
 
 
数多の女性を虜にしてきただの、十数人もの女性をはべらせてその輪の中でさながら王様のように微笑み毎晩楽しんでいるだのと、諸々囁かれた彼に纏わる逸話はやはり噂でしかなかったらしく、僕は彼に圧し掛かられ糊の感触を忘れ去ったシーツに押し付けられながらも妙な戸惑いを感じるばかりだった。
だってそうだろう、押し倒してそのまま欲望のままに剥いていくのかと思われた手つきが施すのは妙に稚拙な愛撫でしかなく、最初の威勢はどうしたのかその手は僕のシャツを剥ぎ取ることも忘れて胸を彷徨い、呼吸も間々ならない下手糞なキスを施すばかりだった。
ここは片手で僕の腕を封じながらシャツのボタンを外していくべきだろう、若しくはさっさとベルトを外すなり何なり進めないと、と不本意ながら犯される手順を思い描いていたのに一向に進まない稚拙な手に戸惑うのはこちらの方だった。
生娘よろしく、は言いすぎだけどファイターの腕っ節で押し倒される覚悟を常に抱いているこっちの身にもなってみろ、何だか拍子抜けだったわけで、息苦しいだけのキスをされながら必死に求められる中で、互いに気持ち良くなる最善の方法を瞬時に導くしかなかった。
 
いやもうだって、グラハムに任せたら全然進まないんだもの。
 
 
 
 
カタギリ、君は何を、と視界が180度反転したグラハムは喚きながら僕の胸を押し退けようとしたけれども、焦れったいから僕が脱がせるよとも言えなかったし、君、結構下手だろう、とも、不器用すぎないか、とも彼の名誉の為には言えなかった。
言えない代わりに老朽化した木造の古めかしい階段のように派手に啼き出すベッドを宥める暇もなく、僕は考え付く限りの殊勝な表情とやらを顔面に貼り付かせながら目を白黒させるグラハムの頬を指の背でゆっくりと撫で、唇に噛み付いて舌を味わっては、次第に力を緩める彼に小気味よさすら覚えた。
本気で抵抗しないのはお互い様かとどこか頭の片隅に置きながら、僕が上になった方がスムーズにことが進むのはどうしてなんだろうかと込み上げる笑いを飲み込んだ。
それでいて僕ら二人、面倒なことに素面なことが多かった。
 
全く、素面でこんなことするもんじゃないのに。
 
 
 
 
アルコールの恩恵というものを、こんなときくらいは受けてみたかった。
飲んで前後不覚にまで酔ってたから覚えてないよ、よく解らないけどやらかしちゃったみたいだね、と目覚めて痛むこめかみを押さえながら笑い合えたらどんなに良かっただろう。

 終わった直後はまだいい、けれど二人正気に返りつつある中のあの気まずさと罪悪感といったらなかったし、無かった事にして忘れられたらどんなに良いだろう。
けれど、と僕は傍らで眠る友人を視界に入れた。
友人は、グラハムは、何を考えているのだろう。
 それとも何も考えていないのだろうか。
据え膳に他ならない状況を甘んじて受け入れる僕も僕だが、グラハムだって相当だ。
友人相手に戯れにセックスを仕掛けるような、そんな趣味なんてあっただろうか。
 

 シャツの隙間から忍び入れた舌で、唇で、愛撫してやれば彼の胸は綺麗に反る。

 甘く吐息しているのだろう妙に熱っぽく続く喉奥からそれがせり上がる様に、漏れる音に、耳の奥を支配される感覚が僕を煽った。
 唇を離し、彼を視界に入れればいささかぼやけた像がそれでもまっすぐに僕を見据える彼を映した。
 伸びた指が僕のあごを捕らえ、唇を弄り押し開いて舌先へ。
 
はやく、
 
 僅かに開いた彼の唇は、そう命じていただろうか。
 

 僕をボトムにしたかっただろうに、不器用な彼は結局僕に折れてくれている。
 仕掛けるのは毎度彼からだけれども、拙い指先に焦れるのも真っ直ぐに見据えて強請る目に根を上げ降参するのも、仕掛けてくるくせに肝心な所で恥らう姿に煽られるのも、結局は僕で。

 まぁ彼が色々と可愛かったのだから仕方がない、

 そんな風に思う僕は残念ながらどうかしているようだった。
 
 
 
 


 素肌にブランケットを巻いただけのシンプルといえば聞こえは良いが、プリミティブに他ならないスタイルで男二人が同衾する滑稽さを、こんな風に一人ベッドで嘲笑する時間が少しずつ増えている。
 
 こんなときに同調してくれるはずの隣の体温はいつも夢の中で、邪気のないまま僕の肩先に重力の限りを体現させては柔肉を食っていた。
 何度か不意に肩先が軽くなるがまた同じように荷重がかかる。どうやら今夜は据わりの良い位置を探しもぞもぞと首を動かして再度肩に擦り寄る、という行為を反復しているらしい。
 肩先に彼の頬やら跳ねた髪がくすぐる感触でむず痒く、けれど彼を起こすのも忍びない。
 申し訳程度に自由になる方の腕を伸ばして再度髪を梳いてやるけど、彼に支配された肩はさながら拘束されたように動かせなかった。

 眠ろうにもどうにも目が冴えてしまい、その癖彼は僕の肩先やら二の腕を器用に枕代わりにするばかりで、寝返りをうって完全に離れる気は無さそうだ。

「……うーん、君ねぇ、もしかしてこの体勢に慣れて来ているんだろうか?」

 ベッド脇のランプのみのほの明るい中でぼやいた僕の声は澄んだ空気の中で思ったよりも響いて、よもや彼が目を覚まさないかと焦ったが、聞こえてくるのは変わらずの呼吸音と、気配で感じるブランケットが上下する動きだ。
 そういえばあれは彼と初めて寝たときだったのだろうか、ブランケットがやけに解り易く上下するものだから、やっぱりパイロットで軍人なんだなぁ、寝るときも綺麗な腹式呼吸なんだなぁとやけに感心したのは。


 僕は頭の中でのイメージで自分の指を折りつつその度ごとの彼の寝顔やら、時にはお世辞にも良いとは言えなかった寝相やら、髪を完全に乾かさずに僕らが行為に至ってしまった所為で、明くる朝に盛大に跳ねた彼の寝癖のすさまじさを海馬から取り出した。
 けれど、一つ一つ折った指に糸でも括りつけるように記憶と擦り合わせて行ったが、どうにも躓いてしまって、上手くイメージと記憶が合致してくれない夜が幾つかある。
 あれは僕が調子に乗って彼を焦らせて泣かせてしまったときだろうか。それとも僕が酔っていた?若しくは彼が酔って醜態を晒した?……嗚呼違うな、僕が迷惑をかけられたのであれば、それは記憶に嫌でも残るはずだもの。
 嗚呼それにしても、つい数ヶ月前にはこんな状況が待っているなんて思いも寄らなかった。
 不謹慎且つふしだらな行為に耽っているだなんて、彼や僕の敬愛する人達に知れたら眉を顰められるだけじゃ済まなくなるだろう。人肌の温かさや肌の滑らかさについ、だなんて甘ったるい言葉で言い逃れできるなんて思わない。
 
思わないけど、なら僕らは何故こんなことを続けているんだろう。
 
 
 
ねぇグラハム、僕ら初めての夜はどんな風に、どんなきっかけで過ごしたんだっけ?
 



 すり、と肩先に頬を擦りつけられる感触と、遅れてきたざらつく僅かな痛みに呻きそうになったのに、思わず声を殺した自分に苦笑が漏れた。ほんの僅かな判断力は僕に声を殺させて、この頼りないだろう痩せぎすの身を枕に眠る友の眠りを守れとの命を下した。
 ざらつく痛みは彼の髭が伸びて来たのかも知れない。
 じゃあ、彼用のシェーバーでも置こうか、それと彼用のルームシューズに、歯ブラシは……先程マーケットで恥ずかしい思いをしながら自棄になって数本入りのファミリーパックをカートに放り込んだから、あれはそのまま買って来たはずだ。買い置きがあるから当分は大丈夫だろう。
 それと彼が酒片手に来たときのためにグラスを余分に。
 いつまでも大きさの揃わないカップやグラスで飲み合い、酒を注いでやるたびに酒が足りない、不公平だなんて言われるのも面倒だ。それからカトラリーや食器の類も足りなかった。元々この部屋には僕一人分のものしかないのだもの、ゲスト用の物を揃えることなんか考えもしなかった。
 そうだ、彼がいつ来ても良いように、冷蔵庫の中も少しは充実させておこうか。今夜は買物に行ったから良かったものの、いつかのときのようにミネラルウォーター求めて、彼が痛む腰を押さえながらエントランスの自販機に赴くようなことがあっちゃならない。それでなくとも、この巨大ながらんどうは無駄に他ならない、と僕の空っぽに近い冷蔵庫を開けて彼は嘆くのだもの。君は私を餓死させる気かね、て不遜に笑いながらね。
 それからソファとテーブルの類もそろそろ揃えなきゃならない。
 いつまでもベッドに二人腰掛けて話して呑んで酔えもしないのにそのまま雪崩れ込むようにセックス、若しくは流されるようにセックス、だなんて不健康極まりないじゃないか。
さて、そうと決まれば早めに用意しよう、できれば今度彼がここを訪れる前に全て揃えてしまいたい。
彼自身がサプライズの塊みたいな人だから、今度は僕が少しでも驚かせてあげたい。
次にここに足を踏み入れた途端に、大仰に驚く彼の声が聞けるだろうか。
 君もようやくソファの必要性に気付いたか、と声を弾ませるだろうか、それとも冷静ぶってソファの座り心地を確かめるだろうか。それから冷蔵庫の中身やらルームシューズやら、彼の為に揃えた物達に、喜んでくれるだろうか。そんな彼の姿を空想して、込み上げた笑いを何とか喉奥で飲み込んだ。
肩先に視線を向けても、そこには安らいだ寝顔があるだけだ。
良かった、起こさずに済んだみたいだ。
 
 
「……ねぇグラハム、今度はいつ僕のところに、」
 
 
 来てくれるの、と続けて口に出して、妙に浮き足立った自分の声に気がついた。
 
 
嗚呼カタギリ、君もやっと友人をもてなすということを覚えたのかね、
 
 
等と告げながら見上げてくる意思の強いグリーン・アイズを思い浮かべて僕は目を細めた。
  嗚呼そうだ、そうだよ、君が喜んでくれるのなら、何だって。
 
 
 

 
――こんなこと言いたくはないけれども僕は彼に流されることを覚えて、その心地好さを少なくとも面倒とは思わなくなっている。
 肩に感じる彼の体温も滑らかな頬の感触も唇に残る柔らかなそれも、言い尽くせないほどのあれこれが押し寄せては、僕の脳を甘ったるい色に染め上げてどうしようもなく鈍らせた。
 
 

 
 胸にじんわりと溢れ出ては温かく広がるこれが何なのかと、
 とうの昔に覚えのあるはずのそれに、気付けないでいるくらいには。
 
 
 





 
 
 






END







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2008年冬コミのペーパーSSの加筆修正版です。
今更のUPで申し訳ないです。しかもたぶん、二倍くらいに増えてる……orz
やっぱりカタギリがどうしようもなく、ぐだぐだしているのが好きだったりします。
観念して気持ちを伝えるのは10年以上後ですが(老後参照)、
待っててくれるグラハムには大変申し訳ないと思うばかりです。







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2010/04/04 23:05 | ビリグラSS

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