「and I Love You」
*サンプル*
*再録本『and I Love You』に収録(書き下ろし)
*サンプルは続きからどうぞです
***********************************
「and I Love You」
(途中抜粋)
眠れない夜は当たり前のように時折訪れて、そんな夜は隣に眠るグラハムの体温を感じては安堵した。
まるで使い古しのブランケットをいつまでたっても手離せずにいる子供のようだ。
彼の心音に、呼吸にそっと耳を澄ませて綺麗にゆっくりと上下する胸を闇の中で目を凝らすようにじっと見つめる。規則正しく続くそれに安堵しながらいつも願う。
まるで使い古しのブランケットをいつまでたっても手離せずにいる子供のようだ。
彼の心音に、呼吸にそっと耳を澄ませて綺麗にゆっくりと上下する胸を闇の中で目を凝らすようにじっと見つめる。規則正しく続くそれに安堵しながらいつも願う。
怖くて堪らない、来るべき可能性だとか、来るべき日の訪れが少しでも遠のきますように、
嗚呼どうか、嗚呼どうかと。
こんなときばかり引き合いに出す見たことも無い神様に縋ろうとするだなんて、僕は何と虫が良くて厚かましいのだろう。
でも今なら解る、神様にでも何にでも祈りたい気持ちが痛いほど良く解る。
どうしてと何故を何万回繰り返しても、何にもなりえないことは幾らでもあるのだと。
そして小さな祈りや願いも瞬く間に踏みにじられてしまうことがあるのだと。
そして小さな祈りや願いも瞬く間に踏みにじられてしまうことがあるのだと。
だから尚更、祈らずにはいられない。
嗚呼どうか、嗚呼どうかと。
もう誰も連れて行かないで下さいと。
(中略)
彼に縋りつくように熱を交わした後は、女々しくて申し訳ないねと謝罪の類を口にしないではいられなかった。
彼をひとしきり抱き締め、肌に唇を降らせ貪っては、僕はいつまでたってもグラハムに愛を意味する言葉が言えずにいた。お互いに触れたことの無い部分などどこにも無いくらいに抱き締め合っているのにだ。
けれどグラハムはいつも、何が女々しい、どこがだね、君、と些か強い口調で返しながら、溢れる僕自身の体温を一つも取りこぼしてやらんぞ、とでも宣言するように僕を頭から掻き抱いた。
僕ら二人があの格納庫で出逢ってから、ごく自然に抱き合い始めたあの頃に僕が良くそうしていたように。
ねぇ君、何でそんなに可愛いんだい、と軽口交じりにグラハムを抱き締めずにはいられなかったあの頃、
何かと口実を作っては、僕の部屋にグラハムが入り浸っていたあの頃、
ただシンプルに、無邪気に抱き合うだけだったあの頃みたいに。
そうして僕はまた、どうしようもなく怖くなったのだ。
PR