「僕らの愛は、今日も忙しい。」
*サンプル*
*再録本『and I Love You』に収録
*サンプルは続きからどうぞ
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「僕らの愛は、今日も忙しい。」
*サンプル*
しまった、と思ったのはまず視界に入ったのが見慣れた部屋の天井で、しかも煌々と電気がついていたからだ。
嗚呼、また僕は電気をつけっぱなしで眠ってしまったのだろうか。そして視界は非常にクリアな上に、天井の照明器具にこびりついた埃の影まで視覚が感知したので、電気の次は眼鏡をかけたままなんだろうと思考が行き着いた。
背中が、後頭部が、肩胛骨が、腰が痛い。
硬過ぎる感触はなるほどフローリングのもので、横目に写るのは木目と埃とわさわさと広がる僕の髪。
しかし後頭部に感じるごろごろとした異物感は…、嗚呼そうか、髪も結ったままだったか。
体のあちこちが痛む。何だか起き上がるのも億劫で、僕はそのまま頭の位置をごろごろと変えて座りの良い位置を探したが無駄だった。幸いにも服は着ていたようで、布が皮膚にまとわりつく感触にそっと息をついた。
酒臭い。
喉奥からせり上がる呼気はアルコール成分にまみれて、明け方の歓楽街の据えた臭いがした。
自分の吐息ですらそう感じるだなんて、昨夜は珍しくそうとう飲んだのだろうか。
嗚呼…いけない、頭がズキズキと痛んで思い出すことを拒否した。そのままだるい腕をずらせて胸を手で探ると、摘まんだそれはロイヤルブルーのハイネックで、下に手をやればボトムはくたびれた感のあるスラックス。いつもの仕事着だった。
しかし後頭部に感じるごろごろとした異物感は…、嗚呼そうか、髪も結ったままだったか。
体のあちこちが痛む。何だか起き上がるのも億劫で、僕はそのまま頭の位置をごろごろと変えて座りの良い位置を探したが無駄だった。幸いにも服は着ていたようで、布が皮膚にまとわりつく感触にそっと息をついた。
酒臭い。
喉奥からせり上がる呼気はアルコール成分にまみれて、明け方の歓楽街の据えた臭いがした。
自分の吐息ですらそう感じるだなんて、昨夜は珍しくそうとう飲んだのだろうか。
嗚呼…いけない、頭がズキズキと痛んで思い出すことを拒否した。そのままだるい腕をずらせて胸を手で探ると、摘まんだそれはロイヤルブルーのハイネックで、下に手をやればボトムはくたびれた感のあるスラックス。いつもの仕事着だった。
腹に感じる冷気はハイネックの裾が捲れていたようで、僕はそのまま裾を直し、薄ら寒さに二の腕をさすってごろりと横になった。
二十代も後半になって三十路へのカウントダウンを少々気にするようになってから、その思考を後押しするように酒が翌日に残るようになった。学生の頃のような、記憶を飛ばす乱暴な飲み方は控えるようになり始めて、こうして床で眠るなんて久しぶりだ。目の端にでも記憶を呼び覚ます手がかりになりそうな物が映ることを祈ったが、グラハムが気に入って勝手に買ったオフホワイトのレザーのソファと、その上に僕愛用のベージュのブランケットがあるだけだった。
……うーん、昨夜は何をしたんだっけ。
再度寝返り裸足の足で無意識に床を探ると、柔らかい布…だろうか、何かに触れて僕はそのまま足指で摘まんで放り、視界へ引き入れた。
「……?」
黒くて柔らかい…、何だろ。
だるい腕をずるずると引きずるように床を這わせ、布きれと思しきものに手を伸ばす。だが、頭上から降って来た声に僕は思わず動きを止めた。
「……幾ら何でも行儀が良いとは言えんな、カタギリ」
地の底を這い呻くような声が僕の耳に届いた。
再度寝返り裸足の足で無意識に床を探ると、柔らかい布…だろうか、何かに触れて僕はそのまま足指で摘まんで放り、視界へ引き入れた。
「……?」
黒くて柔らかい…、何だろ。
だるい腕をずるずると引きずるように床を這わせ、布きれと思しきものに手を伸ばす。だが、頭上から降って来た声に僕は思わず動きを止めた。
「……幾ら何でも行儀が良いとは言えんな、カタギリ」
地の底を這い呻くような声が僕の耳に届いた。
仰のけば、視界に飛び込むのは白く眩しい腿。その奥は…、惜しい、白いシャツの裾に阻まれてあと数センチメートルで隠されていて見えない。その更に上には、見慣れた愛しい顔。グラハムだった。
昨夜、泊めたっけ?
「……何でいるの?」
昨夜、泊めたっけ?
「……何でいるの?」
寝起きの頭に浮かんだ素朴な疑問は、僅かに屈んだグラハムに髪を存分につかまれて激痛に変わり、痛いから、抜けるからっ、という僕の嘆きに彼は「今から気に病まずとも君は将来ハゲ確定だ」と僕の心にトゲを刺した。全く、優しくないねぇ。
それならせめて腿の上も拝めるだろうかと首を捻るが、ひらひらと舞う白いシャツの裾に遮られ、またしても暴くことは叶わなかった。だが覗こうとしたのが知れたようで、ついでに頭を叩かれる。
「痛……ッ! 酷いよ、君、」
「それは私の台詞だ」
呻く僕にグラハムは冷たく言い放つ。
それから局部が見えそうになるのもお構いなしにしゃがんで布きれをつかみ、尻だの腿だのを僕に晒しては、不用意に猥褻な気持ちにさせた。
嗚呼、朝から何てもの見せてくれるんだい、全く。
「痛……ッ! 酷いよ、君、」
「それは私の台詞だ」
呻く僕にグラハムは冷たく言い放つ。
それから局部が見えそうになるのもお構いなしにしゃがんで布きれをつかみ、尻だの腿だのを僕に晒しては、不用意に猥褻な気持ちにさせた。
嗚呼、朝から何てもの見せてくれるんだい、全く。
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