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2024/05/06 15:04 |
ラヴァーズ・コンチェルト サンプル


「ラヴァーズ・コンチェルト」


*再録本『and I Love You』に収録
*サンプルは続きからどうぞ




************************************



【ラヴァーズ・コンチェルト】
*サンプル*










学生の頃ならいざ知らず、僕が酒を過ぎるなんてこと、今じゃ年に一度有るか無いかの極めて低い確率で発生する出来事だった。
 
酒を「過ぎた」と僕自身がジャッジするのは記憶の消去という点だ。それさえ無ければ良かった。
僕も若い時分はそれなりにヘマをやらかしていたわけで、朝目が覚めたら見知らぬ女性が隣で眠っていたこともあるし、着衣ならまだしも二人揃って全裸だった経験もある。
 
下半身の記憶を自らに問う前に、隣で眠れる美女から昨夜は素敵だったわと頬に一つ優しくキスを寄越されてそのまま、貴方のお名前は? 等と可愛く小首をかしげて尋ねられることも少なくなかった。
 そんなときは余裕ぶって微笑みながら彼女の唇を塞ぐだけで若造の僕には精一杯で、今にも暴発しそうな情けない心臓を抱えながら、一切合財の記憶を消去してしまった愚鈍な脳を呪った。

 
――僕は以前、グラハムにこの話を披露した事がある。
 
それは過去の恋愛を告白し合うという趣旨ではなく、何かの拍子に口から零れ出た他愛のない話のはずだった。二人で懇意にしている小さなショットバーでグラスを傾け他愛のない話をして。
 グラハムの金色の睫毛が瞬きの度に柔らかなランプの光を弾くように煌くのがやけに綺麗で、僕は少々見蕩れて会話を忘れてしまったのだ。
そして途切れた会話の繋ぎにと何気なく口にしたそれは数年前、しかも学生時代の初々しくも迂闊で可愛らしいエピソードだった。
こうした若さ故の微笑ましいミステイクはそれこそ酒の席なら尚更笑い話にしかならないはずで、僕は悲しいことにそういう話を幾つかストックしていた。
 苦笑しながら告げれば大笑いの後にグラハムは輝かしい自己の武勇伝の数々(こうした意味でも彼は撃墜王なのだ)を披露するものだと思っていたが、実際には彼は、「ほぅ?」と僕に冷えた笑みを寄越してきた。どういうわけか彼の反応は、まるで処女のように潔癖で、更に嘆かわしい、汚らわしいとでも言いたげな剣呑とした視線が追加された。
 意外な彼の反応に僕は正直面食らった。
 グラハムだって数多の女性と浮名を流しているはずだ、それともこうした冗談は嫌いだったろうか。
少し考えを巡らせて気付いたのだが、彼の通って来た恋は、意外にも真面目過ぎたグラハムの情の重さに耐えかねて瞬く間に終わるものばかりだった(それは推測の域を出ないMSWAD内での噂の一つだ)。
 グラハムは惚れっぽい癖に元来真面目過ぎて融通の効かない面がある。頑固と称しても良い。
 フラッグを駆る際の柔軟性とは別に生来は極めて堅く、高潔な精神を宿していることもあるのだろう、フリーセックスを嫌っていた。お堅いグラハムは「君にそんな甲斐性があるものか、」と一言発して冷えた目つきで僕に笑いかけてきた。それから不実なセックスをした僕を蔑むように一層睨みつけてグラスを呷り、黙り込んでしまった。
僕は過ぎたことは仕方が無いと、その後の話題に気を遣った。
 本来ならばあまり外でするには好ましくない仕事の話を少々持ち出し(僕らの他に客がいなかったことも幸いした)、フラッグのカスタムプランを打診して彼の瞳に幼子のような輝きが戻るのを待ち、機嫌の上昇を確認して漸く安堵したのだった。
しかしその夜、グラハムが珍しく荒々しいセックスを所望してきたので、それもそれで面食らった。
燃えるような目で僕を掬い上げ、睨み付けるように見つめ、ファイターの腕力に任せて貧弱な技術者の体をベッドへ押し倒し、噛み付くように唇を合わせながら猛る下肢を擦りつけて来た。
 他愛のない話をしてクスクス笑いながら服を脱ぎ合ういつもの微笑ましい手順とは趣が異なり、余裕の無さを主張する彼がどこか愛おしかった。焦る手指をことごとくボタンホールに引っかからせては、僕のシャツの前を開くというごく単純な作業にすら手間取って、焦らなくてもいいよ、と囁いてやれば更に睨んで来るしで、あまりのグラハムの可愛いらしさに結局僕は観念して、可能な限り甘やかして要望に応えた。
いったい何が彼をそうさせたのだろうか。
僕は逸る彼をなだめてやりながら、ぼんやりと考えた。そして何度も欲しがるままに与えては、ついにはもう無理だ、許してくれと涙交じりの声音で懇願されるまでしつこく彼を攻め立てた。下肢を引き絞られる感覚に甘い眩暈を覚えては、高揚のままに彼の熱く潤むそこをいつもより手酷く扱ったかもしれない。
 しかし健気にしがみ付いてくる彼の指先と、僕の唇を執拗に求める舌先は僕を離すまいと懸命に訴えているようで、それでやっと、嗚呼、妬いてくれたのかと思い当たった。
彼に自覚があろうと無かろうと、常々持っていたほんの少しでも妬いてくれるだろうかという僕のもくろみは少なからず日の目を見たようだ。
同性ではあるが肌を重ねる相手となっている彼に自身の過去の過ちを話せばどういう反応が返るのか、グラハムがどんな風に興味を抱いてくれるのか。

 僕はそれを知りたくて、あんな話を持ち出したのかもしれない。
 
 




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2008/04/20 23:12 | オフライン

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