Promise (2) (ビリグラ R15?)
(1)のつづきです。
*************************************
Promise (2)
サイドテーブルに置いた腕時計を手探りで掴んで見れば、文字盤のアラビア数字の9の位置に、丁度短針と
長針が重なりかけていた。まどろむ時間は終わりだ。
長針が重なりかけていた。まどろむ時間は終わりだ。
「……ほらグラハム、そろそろ時間だよ?」
「………ん…、」
起きて、と頬をそっと摘んでやれば彼は逃げるようにずるずると顔をうつ伏せる。肩を揺すろうと髪を撫でようと相変わらずで、こうなれば最後、短く見積もってもあと30分は起きない。
仕方が無いな、先にシャワーの準備を……と僕は半身を起こし、左手をマットレスに付いて起き上がろうとしたがその時、かくん、と引っ張られて手首に僅かな痛みを感じた。
見ればいつのまにやら左手を彼の指に捕らえられていた。
おいおい勘弁してくれよ、と外そうとしたが寝ぼけているらしい彼の力は強まる一方で、それは大事なものを奪われまいとする子供のようだった。
例えばそれはテディ・ベアだとか、握れば返される力に安心するような親の手だとか。
誰の何と間違えているのかは解らないけれど、でも僕の胸にじわりと滲む温かい気持ちは、嬉しさというやつなのだろう。
「……グラハム、離して?」
声をかけてもグラハムが目を覚ます気配は無く、そのまま彼の指はずるずると下がって僕の指先に添えられ、やわやわと確かめるように蠢いてまた握りこんだ。
もう飽きるまで勝手にさせてやろうかと諦めれば、彼がまたもぞもぞとうつ伏せた枕から動いて、顔をこちらに向けて来た。
ぐしゃぐしゃの前髪の間から覗く穏やかな表情は楽しい夢でも見ているのか、口元に笑みが刻まれていて、
僕も思わず顔が緩んだ。
ぐしゃぐしゃの前髪の間から覗く穏やかな表情は楽しい夢でも見ているのか、口元に笑みが刻まれていて、
僕も思わず顔が緩んだ。
……可愛いなぁ、本当に。
いつの日か終わりが来る、終わらせなければならないことは解っているけどそれでも僕は彼を手放す勇気も
無くて、いつだってそうだ、彼に甘えている。
無くて、いつだってそうだ、彼に甘えている。
いっそのことこの手を振り解けたら、或いは彼が僕の手を嫌悪してくれれば良かったのに。
そんな、大事な物のように、宝物みたいに僕の手を握り締めるから。
じんわりと伝わる寝不足の子供の体温は熱くて心地好く、僕を蕩かすには充分な温度でいつだって決心を鈍らせて。
嗚呼どうしようか。
どうしよう。
二年で飽きるなんてどういう統計だ。
二年で僕はこんなに、彼の虜になってしまったというのに。
だらだらと続く二年間、
もう言い訳だけでは済まされない二年間、
それを過ごしてしまってなのに僕は、たった一つの答えも出せずにいた。
ねぇグラハム、君はどうしたい?
グラハムの僕の指を握りこむ力が少し弱まると、今度は指先に唇が落ちてきて、食むような動きを見せた。
夢の中でお食事中なのかね、僕もそろそろ腹が減ったんだけど。
あむ、と子供のように噛り付いてはぺろりと舐める。舐めては不味いと思っているのか笑顔が明らかに崩れて、不思議そうに眉根を寄せていた。嗚呼ごめんね、お菓子でも何でもなくって。
小指から始まるそれは五指全部に施せば飽きて勝手に手を離すだろう。仕方が無いのでそのまま見ていたら、彼の唇は爪から間接を辿って指の股に行き着いた。いつも僕がするみたいに指の股を舌先でくすぐる。
ざらりとした感触に妙な感覚を覚えながら、はて、もしかしたらこれは起きているんじゃないのか、とも思った。
ざらりとした感触に妙な感覚を覚えながら、はて、もしかしたらこれは起きているんじゃないのか、とも思った。
それならそれでお誘いと思って僕も受け止めるけれども、どうする、君?
「――――――――ッた、」
明らかな痛みに驚いて手を引けば、存外簡単に彼の指をすり抜けることに成功した。
何だ、僕の手なんかどうでも良かったのかと少し思わないでもなかったが、彼の唾液に濡れた左手を見て、
赤く刻まれた痕に僕は絶句した。
赤く刻まれた痕に僕は絶句した。
まさか、と思ってサイドテーブルに置いた眼鏡を引っつかんで掛け、クリアな視界を取り戻した目の前に改めて左手をかざして見たが、それはもう疑いようも無く。
彼の唇から逃れた僕の左手の、薬指。
嗚呼いつぞやここに証たる物をはめる日が来るかもしれない、とまだまだ純粋だったティーンの頃に思った場所、そこには、
彼の歯形が。
「…………、」
―――参った、本当に。
僕はそのままシーツの上で胡坐をかいて、ベッドから降りることを放棄した。
もうシャワーだとかブランチの仕度だとかそんな力はどこにも残っていなくて、完全に脱力してしまったのだ。
本当に、彼は性質が悪い。いつだってこうしたサプライズで気まぐれに僕を喜ばせる癖に、覚醒すれば微塵も覚えてはいない。
本当に、彼は性質が悪い。いつだってこうしたサプライズで気まぐれに僕を喜ばせる癖に、覚醒すれば微塵も覚えてはいない。
まさか今までこんな手で女の子を喜ばせていたんじゃないだろうね、だとしたら君、訴えられても文句は言えないよ。
彼の過去の恋愛を敢えて聞いたことは無かったけれど、いつだって彼は真剣で誠実だったと噂では耳にしていたから指輪の一つや二つすぐに買ってやって、その付き合いの長さに関わらず、将来を誓っていたんじゃないんだろうか。そしてその重さに耐えかねて彼の恋は壊れていったと、これまた推測の域を出ない噂で耳にしたことはあった。
嗚呼そうだ、いつだって彼は潔かった。
迷っていた僕の手を掴んで引きずり込んだくらいだ。
迷っていつでも逃がしてやれるように最後まで手は出さずにいた僕に焦れて、捨て身で挑んで来たくらいだ。
受け止めてはみたものの、また迷っている僕に気付いて、こんな悪戯を仕掛けたのかな、君は。
彼の痕が刻まれた左手の薬指を右手の人差し指でそっと撫でて、組んだ脚の間、ブランケットでできた空間に手をそっと置く。さあどうしようかと右手で髪をかき上げ手櫛で梳いて、そのまま顔を覆えば熱さに戸惑う。
……これ、赤面してるんじゃないだろうな。
そんな今更、僕の歳で。
そして僕は急激な体感温度と心拍数の上昇を感じた。
早鐘のように心臓が鳴るという表現をマラソン以外で初めて体感し、馬鹿みたいに熱い頬にどうしようもなくぺたぺたと手のひらを当てて、冷やさないといけないなぁ、とぼんやり考える。
早鐘のように心臓が鳴るという表現をマラソン以外で初めて体感し、馬鹿みたいに熱い頬にどうしようもなくぺたぺたと手のひらを当てて、冷やさないといけないなぁ、とぼんやり考える。
――大丈夫、病気じゃない。
ある意味病気の部類に入るだろうけど。
ねぇ、と僕はブランケットにくるまる彼に呼びかけたが、思った以上に発した声はか細く彼の耳に届く前に掻き消えたようだ。
ある意味病気の部類に入るだろうけど。
ねぇ、と僕はブランケットにくるまる彼に呼びかけたが、思った以上に発した声はか細く彼の耳に届く前に掻き消えたようだ。
彼の唇は今度は枕に興味が移ったらしく、僅かに覗いた白い歯が端に噛み付いていた。
最近おさまっていた噛み癖が出たのかもしれない。
でも、ねぇ、君、
これって。
こんなことって。
こんなことって。
もうこの際、朝の光の中で煌く彼の美貌を賛美してやって当面の間逃避してしまおうか。
惰眠を貪る彼を揺り起こして叩き起こすこともできたけど、僕はその前に、と絶え間なく沸き上がる源泉のように脳を満たすいくつかの答えに思考を支配されていた。
あぁそうだ、
考えろ考えろ、
これは、こんなことは、
あぁそうだ、
考えろ考えろ、
これは、こんなことは、
あってはならないよ。
……幾ら何でも君、予測不能過ぎやしないかい?
僕は顔の火照りを抑えるにはあとどれ程の時間が必要なのか、拙いだろうが割り出すことに集中した。
もう彼を起こしてやるのはそれからで良いだろう。
嗚呼どうしよう、凄く、嬉しいんだけど、
そして左手の薬指、彼に刻まれた無骨な証にほんの少しの痛みを感じながら、にやけて緩み切っているだろう顔をそのままに僕は傍らの体温に問いかけた。
「―――ねぇグラハム、これってどういう意味?」
END
****************************************
14話のビリスメアピールが本気で辛かったようです。
公言した通り、カタギリへの呪いの言葉を吐きながら、何やら恥ずかしいものを書きましたorz
ギャグでございますね、ハイ(笑)。
(そしてカタギリは自ら結婚フラグをへし折る…はず……)
…そして朝の話が二つ続いてしまいました……orz
白シャツは…次くらいに……。
PR
トラックバック
トラックバックURL: