Good Luck, my Ace 2
ビリグラで1のつづきです。 つづきから、どうぞです。
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Good Luck, my Ace 2
触れ合う心地好さに身を任せ、何秒興じていたか解らなくなった頃、気付けばグラハムはカタギリに両の腰を掴まれ、腹の位置辺りに熱のある質量を押し付けられていた。
馬鹿、こんな所で勃たせるな。
グラハムは抗議の意味を持って身を捩ったが、更にぎゅっと押し付けられる。
形状すらおぼろげにでもイメージさせるそれに、思わず前回の夜を思い出しかけ慌てて打ち消そうとカタギリを押し返した。
「……っは、」
唇を離せば、慈しむような視線に包まれる。
こうも表情が変わるとは、何とも器用な男だ。
「……あのね、グラハム」
「どうした」
こめかみに唇を押し当てられる。カタギリの優しくゆるゆると唇で探るような行為はグラハムの気に入りの一つだ。
「…君、あと5分だけで良いからここにいてくれないかな」
何を戯けたことを。
5分で……嗚呼、その下腹部の熱を咥えて納めろとでも言うのか。
馬鹿も休み休み言えと口を開きかけたが、カタギリに先に封じられた。
「……君の表情が非常に扇情的でね、まぁ何と言うか、見る人間が見れば解っちゃうだろうねぇ、」
セックスとまでは言わないが、明らかに情を交わした相手に逢って来たと。
だから、君は熱を引かせた方が良い、と眉尻を下げてカタギリは笑った。
鼻の下が伸びているようにも見えるのは気のせいか。
「5分も無いぞ」
「なら3分」
「……」
「60秒、きっかりで良い、それでも」
カタギリは片手をグラハムの腰から離すと肘を捕らえ、徐々に辿るように下へ指先を這わせた。
愛撫なのだろうその行為は、パイロットスーツの上からでもグラハムに充分に熱を伝えた。
熱を上げさせてどうする、お前は。
相変わらず言動が一貫しない男だ。しかし私自身もそうか、とグラハムは自嘲した。
……55、54、53、52、51、
グラハムは頭の中でカウントする。
若干のズレはあるだろうが、一々時計で測る様な無粋な真似はしたくなかった。
熱を引かせろと乞うくせに、カタギリはグラハムの首筋に鼻先を押し当てそこから動かなかった。
時折大きく吸い込むように鼻息が。そして甘く吐息。
甘えるように角度を変えて鼻先を押し付ける行為は大型犬を思わせる。
……何だ、甘えているのか君は。
わざわざ我侭に呼び出したのは私の方なのに。
……43、42、41、40、39、
今度は手指を握りこまれる。フライトグローブの上から触れられ相手の熱なぞ解らなかったが、それでもしっとりとした熱と欲とを思い起こさせる。
人差し指を撫で、次に指の股を。
そして次は中指、と順番に辿るカタギリの指先は雄弁で、ある一つの意思をグラハムに伝えた。
離したくない、
行かせたくない、
……嗚呼そうだな、時間と場所と、諸々条件をも我々に味方してくれればもう少々興じるのもやぶさかではないが――、
グラハムは蠢くカタギリの指先を一度振り払い、今度は逆に握りこんだ。
「――グラハム、君……、」
淡く期待に膨らんだ声音に、あと25秒だと短く言い放つ。
「……そう、」
残念そうな声音にグラハムは若干の清々しさを覚えた。
嗚呼そうだ、君はせいぜい私に飢えれば良い。
次はいつになるのだろう、こうして触れ合える時を乞いながら私を想って夜を過ごせば良いさ。
カタギリは本日珍しく非番で、しかもグラハムは昨夜は夜勤で――、夜勤明け、仮眠を経て出撃となったわけだ。
相変わらず人使いの荒い部署だ。
時間が合わないのはいつものことであったが、合間を縫うように興じていたセックスも、ここしばらくしていなかった。
触れる指先に熱が籠るのはお互い様で、
数時間、数日後になるだろう次の逢瀬を想って刹那に喘いだ。
飢えているのはグラハムも同じことであった。
工具と古いリペアパーツで埋め尽くされた埃臭い資材置き場で、流石に抱き合おうとまでは思わなかったが、それでもただキスはしたかった。
そしてキスで思いの他火を点けられ、溢れる熱を手指を握り込むことで抑えた。
嗚呼、とグラハムは思う。
今再び唇を重ね、舌先にカタギリを感じてしまえばきっとそれだけでは済まなくなる。
下腹部に感じる熱はきっと倍になる。
そうなったら最後、歯止めが利かなくなるだろう。
出撃前の、こんなときなのに。
離れ難い、等という思考は一時の熱病だと思っていた。
だがそれすら回数を経れば慣れ切ってしまい、カタギリのようにいともあっさりと器用に表情を変えてしまえるのだろうか。
次は、いつ逢える?
そう、口を開こうとした瞬間、カタギリが手を振り解き、確かな意志を持ってグラハムから離れた。
「60秒だよ。エーカー少尉、出撃のお時間ですが」
「……解っている」
カタギリめ、数えていたか。
しかしグラハムが数えるそれでは未だ50秒で、いつの間にか僅かにズレが生じていたらしい。
だがカタギリの計測の方が正しいのであろうことは明白であった。
そういう男だ、カタギリは。
その瞬間、グラハムの通信機器がコールした。お呼びだ。
「……うん、まぁさっきよりは良いだろうね」
「何が」
「扇情的だと言っただろう?まだ完全には熱が引いたと言う程ではないけれども、形振り構わず君を押し倒そうとする輩が出ることは無いだろうね」
「私を押し倒す物好きは、君一人で充分だ」
このフラッグファイターを、泣く子も黙るMSWADのエースを押し倒そうとする者なぞ出現するだろうか。
グラハムは不遜に笑ってカタギリを見上げたが、盛大な溜息を返された。
グラハムが意図を伴って誘いをかける相手が自分だけであろうことに、カタギリは感謝した。
「……行こうか?」
恭しく扉を開けてカタギリは促し、ヘルメットをグラハムに渡した。
見上げれば、カタギリはグラハムの額にまたキスを落とし、ひっそりと告げた。
「――Good Luck, my Ace」
「……」
「行っておいで」
ほんの少し寂しそうな笑みに、グラハムは悠然と笑み返すことで応える。
それだけで良かった。
嗚呼、解った、解ったよカタギリ。
帰ったら一目散に君の所に寄ろう、パイロットスーツを脱ぐ間も惜しい程、君を求めてやろう。
一晩中、君を愛して愛されてやろう。
だから君も覚悟をするが良い、せいぜい楽しませてくれ。
再びグラハムの通信機器がけたたましく鳴った。
――さぁ、出撃の時間だ。
END
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二人が付き合い(犯り)始めた頃の話。(なのでグラハムがまだ少尉)
(だから死亡フラグじゃありませんってば)