EVEN (2) (ビリグラSS R18)
(1)の続きです。
つづきから、どうぞです。
**************************************
EVEN (2) (ビリグラ R18)
今夜が何度目なのかなぞ、そろそろ解らなくなりつつあった。とはいえまだ両手で足りる程度か。
相変わらずセックスとはいえグラハムはカタギリに触れることすら間々ならなかった。
触ろうとすれば拒まれる、グラハムから仕掛けるのを許されるのはせいぜいキスとハグ程度で、
焦れて噛み付いてやったら、それもようやくヴァリエーションの一つに含まれた。
どうやらカタギリは、グラハムが己に触れるのを躊躇しているようだった。
それでは初めての、気まぐれと気の迷いを総動員させて更に魔が差したあの夜と何ら変わらないではないか。
夜を重ねて、徐々にゆっくりだがこの体も互いに馴染んできたのに、それはあまりにも、
――嗚呼そうだ、
拒まれているではないか。
まるで欲しがっているのは私だけのようではないか。
私だけが焦がれ、私だけが求めているようではないか。
それでは、それではあまりにも――、
なので今夜、グラハムは実行することにしたのだ。
「なぁカタギリ、君も連日疲れているだろう」
「――え?まぁ…そうだね、多少疲れているのはいつものことだけど」
いつもの部屋着であるコットン素材のシャツとパンツ姿のカタギリは、一層くたびれて見えた。
珍しくシャツにアイロンが当てられておらず、忙しくて構う暇が無かったのだと言う。
髪も高い位置で結ったいつものスタイルではなく、耳の下で軽く横流しに纏めただけで、また随分と印象が変わる。
よく見れば室内も少々乱雑で、几帳面なカタギリにしては珍しく学術雑誌や学会誌がリビングの
テーブルに何冊も積まれており、更に未開封の沢山の郵便物がぶちまけられていた。
ダイニングテーブルには今朝なのか昨日のものなのか解らない、シリアル用の皿とスプーンがそのまま。
流石にシンクに溜めていた洗い物は片付けたんだよ、と客人を招く前にせめてそれだけでもと大急ぎで洗ったのだが、ダイニングテーブルの上の忘れ物まで気が回らなかったらしい。
彼にしては大変珍しいことだった。テーブルの上の雑誌や郵便物にまで気が回らない辺りも。
最近は忙しくて自室には寝に帰るだけか、着替えを取るのとシャワーを浴びに戻るだけだったのだと言う。
やっと業務が落ち着いて、グラハムを招くのに応じてくれたというわけだ。
「そうか、なら今夜はゆっくり休んだ方が良い」
「珍しいね、君が僕の部屋に来てそんなこと言うなんて」
いつでもどこでも盛っていると思ったのか。失礼な。
「……目の下に隈が見えるが?」
「嗚呼、解っちゃったかな? 今解析してるデータがなかなかにやっかいでね、最近仮眠ばかりで
ゆっくり寝てないんだ」
困ったもんだね、もう歳なのかな、と目を細めた表情は更に色濃く疲れの色が滲んでいた。
今しか、無い。
グラハムはカタギリの腕を捕まえて、ひるんだ隙にベッドへ押し倒した。いつもは手指でこの身を散々好きに扱われているとはいえ、優男の体だ。簡単に組み敷けるだろう事は予想していたが、
更にカタギリは疲れ切っている。その身を奪うなら、今しかなかった。
「ちょっと、グラハム何を――、」
「いいから黙って寝ていろ」
スプリングで弾む体目掛けてベッドに乗り上げれば、二人分の重みでベッドが大きく啼いた。
素早く脚の間に身を割り込ませて上から肩を押さえつけ、体重をかけて腿に膝を乗せる。
「グラハムっ、君、何考えて……ッ」
「君が今考えていることだ」
取り澄ました声が崩れる。それに浴びせる己の声は冷え切っているだろうか、しかしグラハムは嬉しくて堪らなかった。あのカタギリが明らかに、戸惑っている、驚愕している、
やめなさい、と続く声を無視してシャツを捲って臍に舌先を当てれば、ヒュッ、と息を呑んだよう
だった。
有無を言わせずボトムのベルトに手をかけるが、その隙にカタギリが上半身を起こして圧し掛かる
グラハムを押しのけようと髪に指を差し込む。己の頭部を掴む手をグラハムは右手でホールドし、
開いた左手で滅茶苦茶にベルトを動かして何とか前の戒めを解き、ファスナーを開けてその奥、
「……ッ、」
緩く立ち上がったカタギリのそれに、舌を這わせた。
一瞬、カタギリの腹筋が動くのが気配で解ったが、そのまま構わず二度、三度、と舌を上下してやればそれは大きくなる。アンダーウェア越しにでも伝わる熱さと固さに、眩暈がした。
嗚呼そうだ、今夜こそは、私の番だ、
「……咥えても?」
礼儀として一応問うたが、カタギリはそっと息を吐くだけで黙秘した。
いつだかよく耳にしていた、困るよ、君、とぼそぼそとした声が耳に届いたような気がしないでもなかったが、グラハムは無視してカタギリのアンダーウェアからそれを引きずり出して両手で包み込むと、ゆっくりと、咥えた。
文字通り必死である。
そしてグラハムは妙な義務感に捕らわれてしまっていて、その狭量はそのまま彼を口での奉仕に駆り立てた。何としてでもグラハムは、そしてそれは己の感覚上での判断でしかなかったが、カタギリとフェアにセックスをしたかったのだ。
寧ろ、フェアでなければセックスとは言えないのではないのか。
―――なので、こんなことどこで覚えてきたのかと問われても、答えようがなかった。
覚えるも何も、聞きかじりの知識のみを総動員し、尚且つそれに個々人の試行錯誤と創意工夫を伴って二人がマイノリティなセックスをしてきたように、グラハムは他人のそれを口に含むことなぞ生まれて初めてなのだから。
開かせた脚の間に四つん這いになり、顔を埋める。
アンダーウェアから覗いた下生えが鼻をくすぐり、濃い汗の臭いが鼻腔をくすぐり、
それでも滅茶苦茶に舌を動かした。
自らで得た過去の経験上、ハイスクールの頃だったか当時の彼女に歯を立てられて死ぬほど痛かったのは記憶していたから、取り合えず唇でやわやわと挟んで舌で撫でては、指を絡めて擦りあげた。
髪を撫でる指は心地好く、カタギリは諦めたのかグラハムを引き剥がそうとするのも止めて、
ただただ優しく促し息を乱してはグラハムを満足させた。
舌を這わせればそれが徐々に育つ感覚に知らず高揚する。
唾液を溜めてなすりつけ、ゆるゆると裏筋を舌で探る。頭上で一層息が乱れ、舌に感じる苦味と塩味が一気に増した。
またえづきそうになって、少し離す、だが唇で先端を揉んでやればとろりと苦いそれがまたグラハムの口の中に広がった。
髪に差し込まれる指に力が込められる。
込められ、ゆっくり、徐々に引き剥がされそうになっているのだと気付き、グラハムはカタギリの脚に爪を立てて抗議したが、聞こえたのはもう良いよ、とグラハムに離れるよう促す静かな声だった。
まだ、途中だ。
グラハムはまたも深く咥えると、また声が聞こえた。
「……もう良いよ、離して…ッ」
弱々しく、だが確かに欲にまみれた声が耳に届く。
嗚呼、君は今如何わしいことしか考えていないな、猥褻なことで頭がいっぱいだなと嫌でも解るほど、その声は色めき立っていた。ゆるゆるとグラハムが首を振って否と応えれば、髪をくすぐる指はグラハムの耳を辿って耳孔に差し込まれ、くすぐったさにグラハムは肩を震わせた。
歯を立ててしまう恐怖に一度口から取り出して、横から舌で撫でては親指の腹で先をぐちぐちと
弄る。猛るカタギリのそれは、グラハムの口内に包まれ、更に自らの液で充分なほど濡れていた。
「……グラハム、」
「何だ」
「…もう、大丈夫だから、」
「……大丈夫、とは?」
「…うん、あの、もう良いよ、…良い、です」
お願いだから離して、とカタギリは許しを乞う。
「……もう、出る、から」
だから離して、と掠れ、力を失った声だが、それはグラハムの鼓膜を刺激してやるせない気持ちに
させた。
思わず飲んでやろうかと口をついて出かけた言葉を寸での所で飲み込んだ。
それでは、それではあまりにも――、
「……知らないよ」
頭上で声がした、と思った矢先にグラハムの視界はカタギリの顔でいっぱいになった。
身を無理矢理引き剥がされてベッドへ沈められたと認識したのはややあってからのことで、カタギリの乱れた髪が自分の顔の周辺をも少々覆い、頭上にあるランプの光を遮る。
しかし逆光でカタギリの表情は良く見えなかった。
「……せっかく我慢してたのに、君は何てことしてくれるの」
「……」
何てことって、何だ。
「君をいつでも逃がしてあげられるように、していたのに、」
だから、最後まではしなかったのに、
乱れた息継ぎで言い募るカタギリの声は確かに欲情していた。
鼻先近くに顔を近づけて語られるそれ、熱っぽい台詞、近すぎるのと逆光でよく見えない表情、
だがグラハムは己が育ててやった彼の下肢なぞ見ずともそれが解った、
何故ならそれは、彼がセックスをするときの声で、更に――、
「………入れるよ」
静かに宣言する声は、夜を纏った声音だった。
長い指先がグラハムのジャケットを剥ぎ、タイを緩め、シャツのボタンを外す。
一番上から留められたボタンを、急くことも無く淡々と外すカタギリの姿にグラハムはごくりと喉を鳴らせた。
ゆっくりと捕食されるのをただただ待っているかのようだった。
投げ出された手が震え、やり過ごそうとシーツを握る指に力を込める。
怖いかい、と問われたがまさか、と応える。そう、とまた返る声音は淡々としていたが先程よりも
柔らかさを滲ませていて、空気が少し優しくなった。露になった箇所から唇を落とされる。
少し荒れているのか唇のカサついた感触に思わず身がすくむ。ごめんね、とまた声がする。
謝るくらいならするなと言いたいが、これはカタギリが酷く臆病なのではとも思う。
だってそうだろう、私が思い詰めるまで手を出して来なかったんだぞ、この男は。
思い詰めて、直接攻撃を仕掛けるまで、もしかしたらこのまま終わっていたかもしれない、
とグラハムは考えその一方で終わるとは何だ、と自らに問うた。終わるとは、それはどういう――、
「………ッ」
「声を、聴かせて」
鎖骨に舌を這わせられ、それと同時にゆっくりとシャツを剥かれる。ゆっくりと片手がボタンを外しては確かめるように指の腹があばらを這い、カタギリによって以前見つけられた性感帯を探られる。たゆたう長い髪がくすぐって、更にグラハムの快感を引きずり出す。
唇で辿っては香りを楽しむように鼻先を押し付け、カタギリはグラハムの胸に頬を寄せる。
眼鏡のフレームが当たるのか、少し冷たかった。
カタギリは更に言い募る。
最後まで抱くよと、
君の中でイキたいと、
だから――、
「逃がしてなんか、あげないよ」
と。
欲にまみれた声音がグラハムを笑ませた。
嗚呼、それで良い、欲しかったのは、それだ。
たゆたう長い髪を引き寄せ、グラハムはカタギリと視線を合わせた。
見れば眼鏡の奥、漆黒の瞳が夜の色に染まっていた。
「――望むところだ」
グリーンアイズが、煌く。
溢れる高揚を、止められなかった。
END
今回はカタギリに喘いでいただこう(…)という企画でした。
カタギリへのサービスを考えていたのですが全くサービスになっていません。
(寧ろ私へのサービスです)……すいません(としか言えない orz)。