EVEN (1) (ビリグラ R18)
ビリグラです。励むグラハムなのでビリグラビリでしょうか。
「児戯」の続きのような話ですが、これ1本のみでも読めます。
長くなってしまいましたがいつものように2回に分けてUPです。
一応心意気はR18です。すいません(としか言えない)。
つづきから、どうぞです。
***********************************
EVEN (1)
我々の営みとも言うべきそれは試行錯誤と創意工夫の連続だな、
とグラハムはぼぅっとした頭の隅、それも左脳のほんの僅か、常時稼働している部分の隅の隅で思考した。理性を司る左脳が、ほんの少しの良心でもって待ったをかけていたのかも知れない。
待て早まるな、否もう遅い、
早まるなと言うならば何故もっと早くにブレーキをかけなかった、
幾らこの私でもポイントというものがある、ブレーキを踏み込むタイミングというものがある。
MSの如く技術の粋を極めたものならともかく、私はただの一人の男に過ぎないのだ。
それでも私はそのポイントごとに熟考し且つ瞬時に判断し、常に最良の選択をしてきたはずだ。
否、だから少し黙りたまえ、あぁ頼むから、なぁ、もう一人の私、
グラハムは内なる己とのディスカッションに明け暮れつつ、その試行錯誤と創意工夫にも脳を費やす。しかしそのまた一方で、もしやこれは酷く感覚を優先させる行為なのではとも思う。
ならば右脳の出番だな、さぁ出てきてこの四肢に指示するが良い、命令を下せば良い、次は、
次はどうすれば良い?
……等とただただひたすら行為に没頭していたのに、グラハムは頭上から降る声で、急に現実に引き戻された。
「……こんなこと…ッ、どこで覚えてきたんだい……?」
掠れた声は隠しきれない欲に喘ぎ、それから口を手のひらで抑えているのだろう、くぐもった呻きと熱を帯びた呼気が指の間から漏れる様をグラハムの鼓膜に伝えた。
良い様だ、と知らず笑みが零れる。だが流石に彼の下肢に顔を埋め、彼のそれ、を口に含んでやっている現状を意識してしまい、喉への刺激からえづきそうになって必至に耐え、唇で絞るように強く挟んだ。
その瞬間、ベッドに座した彼の膝がわななき閉じようとするが、間に割り込ませている己が身で制す。震える腹筋を気配で察し、反応が返ることに素直に喜びを感じた。
いつかはこれが、自分の中を蹂躙して犯す日が来るのだろうか。
口に含んだそれは徐々に固く質量を増して、深く咥え込むのが困難になりつつあった。じわりと滲む苦くどこか塩味を含んだそれを舐め取り、亀頭に擦り付けてやれば、頭上でまたも熱を帯びた呼気が漏れた。
掠れた声で名を呼ばれ、髪に差し込まれた指は無意識なのだろう力が込められ、グラハムは痛みを感じたが同時に小気味良さも覚える。
嗚呼そうだ、と思う。
その声が聴きたかったのだ、と。
湧き上がる高揚を、止められなかった。
――二人の営みは気まぐれだ。
気まぐれも何も、互いの気まぐれと気の迷いがどういうわけだか揃ってフル稼働さえしなければ、
今この時点でこのようなことにもなっていないだろう。
まさかカタギリとセックスをすることになるとは思わなかった、とグラハムは彼と初めて肌を重ねた夜、正直に言ってしまえばそのような感想を得た。色気なぞ無い。
二人の気まぐれと気の迷いが総動員してフル稼働し、倫理や道徳観念すらもタイミングの悪いことに同時に休業し、更に最後に魔が差した。
そうとしか言えない夜だった。
元々は出撃前に隠れてキスをするのが二人の慣習になっていた。
というのも、元はグラハムがからかい半分でカタギリの唇にそれを押し当ててやったら、意外にも
カタギリが瞳孔を開かせて驚愕したのが初まりであった。
幾ら何でもそれは無いだろう、まさかこれがファーストキスではあるまいな、というカタギリの反応はグラハムにとって初々しいを通り越して最早嘲笑の対象となって、その上その驚愕した表情が見たいから、というあんまりな理由でキスは続いた。
ドッグの隅で、ある時は廃材置き場へ連れ込んで、またはほんの隙を突いてスタッフの目を盗んでMSの影で。
自ら背伸びしなければならないのは聊か不本意であったが、ちょんと唇を押し付けてやるだけで、
いつもの慇懃な笑顔が崩れてカタギリが取り乱すのは見物だった。
笑顔の仮面が崩れて耳がうっすらと赤くなり、メガネの奥の漆黒の瞳が更に色濃くなって自分の姿を映すのは、なかなかどうして気分が良い。
……困るよ、君、などと零しては天を仰ぎ、又は顔を手のひらで覆ってはがっくりと肩を落とす癖に、ふわふわと揺れるハニーブロンドがこちら目指して来るのを視界の端で捕らえても、逃げる素振りを見せないカタギリは毎度毎度グラハムの餌食となっていた。
唇を離しては、
「なかなか良い顔をする、一度手合わせ願いたいものだ」
等と仰々しくされど笑いを堪えながらグラハムが声をかけてやれば、嗚呼はいはい、とカタギリは
げんなりと手をひらひらさせて応じる。
それより頼むからこれ以上無茶な納期でMSのカスタマイズをさせないでくれ、君の要求通りに進めるのに本当なら今の5倍はテストデータが必要なのに君ときたら……、等と嘆息してはグラハムに檄を入れられる。(檄としては少々ベクトルが異なるが)
それが数回続き、馬鹿馬鹿しい子供染みたキスの応酬がいつしか慣例となるのに、左程時間はかからなかった。
そっと触れ合わせるだけのバードキスだ、勿論性的な意味は無い。
穏やかに微笑みながら小難しい話を説くよりも、突然の出来事に驚愕して戸惑い、微かに頬を赤らめる姿の方がずっと、カタギリは人間味に溢れているではないか、とグラハムは思う。
そして何よりその顔は可愛らしく、今にして思えば気に入っていたのだ。
だがそれ以上に隠れてキスをする、というのはどこか二人だけの秘密を抱えているようで楽しかった。
いつ誰に見つかるとも知れないスリルはグラハムにとって娯楽だ。カタギリにとっては少々面倒ごとでもあったようだが、持ち前の事なかれ主義であっさりとそれを受け流していた。
しかし、だ。
気が付けばグラハムはいともあっさりとカタギリに陥落された。
カタギリがグラハムに、ではない。
グラハムがカタギリに、だ。
それだけは認めざるを得ないとグラハム自身も理解しているし、熟知している。
事の起こりは最早グラハムもほぼ忘れている、というよりもあまり思い出したくないらしく、それをカタギリが蒸し返そうとすればグリーンアイズできつく睨んでやることで、両手を挙げさせ降参させていた。
解った、ごめんごめんもう言わないよ、とやに下がった笑顔と反省の色を全く含まない声音での謝罪ではあったが、それでもグラハムは傷つけられた自尊心を幾らかは回復させてきたし、させねばならなかった。
カタギリが本気を出せばこれでは済まないことをも、熟知しているからである。
軽く一晩で足腰が立たなくなるまで求められ、懇願するまで眠りをも与えられない程それが続いたことを、数回重ねた夜の中で一度だけ経験していた。
一度で充分だ。
しかも、指だけなのに。
早い話が、グラハムがカタギリの手管に堕ちたのだ。
あの夜、二人が気まぐれと気の迷いを総動員させてしまった夜のことだ。
二人揃って夜勤で、グラハムは自身の休憩時にカタギリの元へ陣中見舞いに訪れた。
ここ数日カタギリがラボの奥、元は応接室であった現在は資材置き場を根城にしていると耳にして、MSについて話を聞こうと思ったのだ。
現在カタギリが開発メンバーの一員として手掛けているという新しいMS、コードネームFの情報が少しでも欲しかった。純粋に好奇心からであったし、自分がメインのテストパイロットにもなっていた。その開発過程に加われるのはグラハムにとって誇りだ。
元は自身も戦闘機や、子供の頃に見たMSのデモンストレーションに魅せられた口だ。
単なるジャンキーだと笑われるかもしれないがMSが好き好きで、それを操縦することは至上の喜びなのだ。
そうだ、それだけしか考えてなかったのだ。
少なくとも、グラハムは。
仮眠用の薄汚れた廃棄寸前のソファに二人並んで座り、ひとしきりMSについて語り合った後、珍しくカタギリがキスを仕掛け、更にあろうことかグラハムが煽られた。
グラハムが未熟なのではない、カタギリが本気を出しただけだ。
薄く開いた唇から舌を割り込ませてグラハムの歯列をゆるゆるとくすぐっては更に口を開かせ、上顎にも歯肉にもざらりと焦れったいほどゆっくり舌を這わせた。初めて入り込んだカタギリの舌の感触に、そしてカタギリに主導権を握られているという事実、カタギリのフレーバー、口内を遠慮無しに探る不可思議な動き、ありとあらゆるものがグラハムの思考を停止させて自由を奪った。
奪われ、呆けて、抵抗するなぞ考えもしなかった。
そして呆けて最初に目にしたカタギリが、捕食を終えた肉食獣のように満足そうな表情をし、その上あろうことか手の甲で唇を拭ったのだ。失礼極まりなく、そして腹が立つことに恐らく無意識だろうカタギリの行動に、負けず嫌いのグラハムはつい口にしてしまった。
キスした後で口を拭うとは何たることだ、
君は下手糞だ、と。
何のことはない、それは単なる子供の負け惜しみだ。
カタギリの、あの優男のカタギリのキスに手も足も出なかったなぞ、……ありえない。
だがカタギリはグラハムのブーイングに怒るどころか声を立てて笑い――、
ならそのキスを教えて欲しいと乞うた。
指が長くたおやかな学者の手が、力強いファイターの手を取る。
そしてそのまま薄く微笑まれ、グラハムは自ら罠に嵌ったのだった。
二度目のフレンチキスは随分とグラハムを掻き立て胸を騒がせ、セクシャルなものを多分に想像させては下肢を甘く痺れさせた。
そして、見つめてくる漆黒が、夜の色を纏い始めたものだったから――、
この男がセックスするときの顔が見たい、
と思わざるを得なかった。
それから互いに都合の良いように気まぐれを起こしては気を迷わせ、更に何度も魔を差させるようになった。
いつでも傍らに悪魔が待機して耳元でほんの一言囁くタイミングを計っているようでもあったし、
事実それはいつでも唐突に二人にやって来た。
セックスがしたくて堪らないのに理由は要らないだろう、というのが二人の見解であった。
早期に見解を一致させられたのは良かったのだろう。
何より、形振り構わず求めて口説き落とす手間が省けた。
何故か毎度こちらが女役のような気もするが、それはおいおい話し合っていけば良いだろう。
一度目を気の迷いとして処理し、そのまま互いに忘れることも出来た筈だが、それはグラハムのプライドが許さなかった。
一方的に己のみ快楽を貪ったからだ。
言い換えれば自分だけさっさと射精して気持ち良くなったというわけだ。
カタギリはというとグラハムの下肢に手指を加えて存分に与えておきながら、自分が吐きだすことには躊躇した。
グラハムが猛るカタギリの下肢に手を添えようとすれば、無理しなくて良いよ、と静かに笑って白い手を取り指先にキスを落として拒んだ。
それはどういうことだ。
流石にフェアではないし、私も、する、とグラハムは火照る身を持て余しながら喉奥から引き絞るように途切れ途切れに言葉を尽くしたが、カタギリは白衣で隠せるから、と長い脚を組んで更に白衣の前を引き寄せた。
ホラこれでしばらくじっとしていればじきに熱も引くから、
等と苦笑しながら返されてどうしろというのか。
射精の開放感に身を委ね、動くのも億劫になり、下肢の始末もカタギリにさせておきながら、
それは、流石に。
明らかに拒まれた、という目の前に横たわる事実に、ならば次の機会に、とグラハムが思わず口にしたのは言うまでも無く。
それから飽きもせず、どちらかが飽きるのを知らず待っているのか、気まぐれに、されど確固たる
意志の上に二人の関係が始まった。
馬鹿げているのは今更で、何故だかどうして止める気にはなれなかった。
カタギリの肌が殊更馴染む理由なぞ解らないが、事実そうなのだから仕方が無い。
彼の唇も手も指も、グラハムに与えるのは好感ばかりだった。
セックスを、したいからする。
二人の関係は聊かシンプル過ぎていたが、グラハムの身の内にカタギリが侵入を果たしたことは、
未だ無かった。
*********************************************
続きます。