BUTTER CUP, MYRTLE 1
ビリさん視点でビリグラ。ちょっと長くなったので2回に分けました。
(でも一度にUPする適量が解らないので、取りあえず様子見ます。
大丈夫そうだったら1、2を繋げます)
つづきから、どうぞです。
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BUTTER CUP, MYRTLE 1
酔ったグラハムを抱えながら帰るのも、部屋まで送り届けるのももう慣れてはいたが、中途半端に泥酔を免れると彼はまるで小さな子供のように、ぎゅうぎゅうと僕にくっついて離れないものだから、正直参っている。
嬉しい悲鳴と言いたい所だけれども、中途半端に酔って、中途半端に記憶を無くし、時には中途半端に脱ぎ出して、……有体に言えば誘って来るものだから性質が悪い。
僕よりは小柄だが決して華奢ではない、綺麗に筋肉のついた体を何とか抱え、自らの非力さを押して彼の腰を支えて部屋まで辿り着き、中途半端に弛緩した体躯を落とさず且つカードキーをドアに差し込む。
その一連の動作を無駄なくこなせる程度には回数も経ていたし、少々の筋肉痛も経験した。
そして何故、僕がグラハムの部屋のカードキーを携帯しているのか。
シンプルに言ってしまえば僕らは肉体関係が有る。
少女趣味で言う所の恋人同士であったし、
世間体を気にすれば親友で同僚、
そしてもっとシンプルに、即物的に言ってしまえばこれはセックスフレンドの類なのだろう。
や、愛はある。僕はあるけれども。
なので僕らは互いの部屋のキーを持っているし、大人の節度と無邪気な子供の欲深さで互いの部屋を日常的に行き来している、そんな間柄だ。
遠慮の無い関係からか、グラハムは多少なりとも酔えば僕と二人きりになると急に甘えが出てくるようで、緊張の糸をいともあっさりと切ることがある。
今夜は基地内の軍用アパートメントに辿り着くまではまだ足取りもしっかりしており、そっと僕が腰に手を添えて支える程度だったのが、エレベーターを経由して目的の階層の廊下に足を踏み入れた途端に、彼は僕に体を投げ出した。
ずしり、と急に右腕に重みを感じてよろけると、
「しっかり支えないか」
と、笑いを含んだようなグラハムの声。
「グラハム、君ね、ほらしっかり立って…、……ちょっと、自分で歩けるでしょうに」
「いや……どうだかな、私としたことが少々飲み過ぎてしまったようだ」
「さっきまで何とも無かったのに?!」
「これでも多少は無理をしていたのだよ」
くすくすと、忍び笑う声が廊下に響く。
グラハムは僕に寄り添う、というより寧ろ全身をぎゅうぎゅうと押し付けてくるような有様で、結局は自力での歩行も面倒になったのだ。
「…ほら、歩くよ?」
促せば掬い上げるように視線を送られ、
「すまないな、カタギリ」
と返される声音の甘く掠れる様に、不覚にも彼を抱く手に力がこもる。
……全く、性質が悪い。
そういったやり取りを経て、漸く僕はグラハムを部屋の前まで運ぶことに成功した。
いやはや、運動を越えて肉体労働だよ、これは。
重い。
脇から腕を差し入れ背中と腰をホールドしてやり、空いたもう片方の手で肩を支える。
ドアに差し込んだカードキーを何とか抜き取り、どうにもならず取りあえず口にくわえ、それからパスワード入力を。すぐに反応してドアが開いてくれるありがたみを噛み締める間も無く、ずるずると引きずる様に嗅ぎ慣れた部屋へ入れば更にセンサーが反応して、天井のルームランプも点く。白色のそれに眩しさを感じ、瞬きを数度繰り返した。
この簡素としか言いようの無い軍用アパートメントでもオートメーション化が採用されていて良かった、本当に。
成人男性の弛緩した肉体の、ずっしりとした重みに腕が泣いた。
申し訳ないけどグラハム、君ちょっと重たいよ。
ぼんやりと、セックスのときは我ながら余程夢中なのだろうなとも思う。
彼の重みなど、あまり意識したことは無かったので。
グラハムは元々、酒を過ぎるタイプではない。
彼自身もさほどアルコールに強くも無いことなぞ熟知しているし、その適量も士官学校時代に嫌というほど叩き込まれたはずだ。だが今日のように酒宴の席を離れ、僕が彼の斜め後ろにぴたりとついて送るよ、とサインを示すと途端に安堵した表情になる。
すまないなカタギリ。
と彼が囁き、酔いでほんの少し潤んだ目元の艶めいた表情を見てしまえば、際限なく甘やかしてやりたくなる時点で僕はかなり骨抜きにされているんだろう。
その表情を夜を徹したものにしたいという下心が無かったと言えば、それは嘘になる。
そりゃ、僕も男だからねぇ。
嗚呼もう、このどうしようもなく可愛いのを誰の目も届かない所へ閉じ込めてやりたいよ、全く。
そんな馬鹿なことを相変わらず考えて、この可愛らしい恋人を部屋まで送り、その後の数時間先まで計算して明日の……嗚呼もう日付は今日になるけれども、おぼろげに記憶していた彼の予定とを照らし合わせて起床時間を弾き出す。
夜勤ならグラハムを昼過ぎまで寝かせてあげられるしありがたいけれど、日勤だったはずだ。
でも大丈夫、ほんの少しなら、愛し合う時間はあるね。
300年程前の日本の言葉で、“送り狼”というのがあったらしいけど。
まぁ何とでも言ってくれ。
「……っと、」
よいしょ、と僕はグラハムを抱え直すと、その拍子に口にくわえたカードキーを落としてしまった。
仕方が無い、後で拾うかと抱えた体躯に目を向けた瞬間、ふと視界に入った彼の額に思わず唇を当てた。
並んで立てばほんの少し顔を横へ傾けた位置に、いつでもグラハムの額がある。
それがまたキスし易いことこの上ない位置で、ついついしてしまうのだ。
掠めるように、或いはそっと蜂蜜色の前髪を食みながら唇を落とせば、グラハムは呆れたような視線を寄越して来るか、若しくはそれが合図になって僕が血気盛んな彼に押し倒され乗り掛かられて一戦交える……というのがお決まりのパターンなのだけれども。
だが彼は酔って無防備になると、くすぐったいのかむずがるようにゆるゆると首を振り、僕の唇から逃れようとする。
今だってそうだ。
首を振り、ずるずると僕から逃れようとして……、
その仕草がまた可愛いと、やに下がる思いでもう一つのドアの向こう、ベッドルームを目指した。
思えば酔った彼の愛くるしい仕草を色々見たくて、部屋まで送り届けたのが最初だっただろうか。
よく覚えていないけれども。
……と、まぁ僕がどんなに自分に言い訳を用意しようとも、グラハムを甘やかしてやりたいという気持ちは昔から変わらず有るわけだ。
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2へ続きます。