BUTTER CUP, MYRTLE 2
ビリグラで、1の続きになります。
つづきから、どうぞです。
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BUTTER CUP, MYRTLE 2
弛緩した体を適当にベッドへ放り込み、次の仕事は半端に乱れた軍装を解いてやることだ。
ジャケットの前を開き、若干緩んだタイを抜き取り、ボタンを全て外してシャツを剥ぎ取り、
……とまぁこの一連の動作も、着替えより睡眠欲を優先させたがるグラハム相手では決して楽なものではない。
……嗚呼ほら、ちょっと背中ずらして。
シャツ引っかかってるから。
だが三度も反復すればいい加減要領も段取りも得てきたし、それも今は十数回以上にはなっているだろうそれなりの回数をこなせば、むずがる子供をあやす様に宥めつつ、グラハムを生まれたままの姿にしてやるのにも楽しさを感じる程度の余裕も出てきた。
楽しい、とは語弊があるだろうか。
楽しい、というよりも、グラハム・エーカー中尉が、「僕」ことビリー・カタギリ技術顧問に何もかもを委ね、時に子供のように駄々をこね、時に素直に、僕にいいように扱われている。
その状況の甘美さと優越に、僕は浸っていた。
楽しかったのは、それだ。
寧ろ嬉しい、と形容した方が良いだろうか。
嗚呼、グラハムにやたら忠実な、むしろ信仰めいた忠誠を誓う部下達が見たら卒倒するだろうか、と僕はしばし想像する。
あの中尉殿が!
いとも容易く酒に呑まれるなんて、こんなに無防備だなんて、こんなに愛らしいなんて!!
……とあの融通の利かなさそうなメガネの、グラハムが可愛がっているあのパイロット(階級も名前も記憶の外だ)、あの彼がこの状況を見たら目を丸くして、それこそ開いた口が塞がらないだろう。
そんな様子が容易に想像できてしまって、思わず僕はグラハムのベルトに手を掛けながら声を立てて笑った。
駄目だよ、誰にも見せてあげないよ。
こんなに可愛いの、誰にもあげないよ。
身に着けていた布を一枚一枚剥ぎ取り、次第に露になるグラハムの肌は、いつもの陶器めいた色とは異なって酔いの為かうっすらと上気し薄桃色に染まっていた。
そんな肌を晒しながら、眠気と酔いの狭間にゆらゆらと漂い、とろんとした瞳で両腕を僕に伸ばして首に絡める。
「……っと、ちょっとグラハム、」
ぎゅうぎゅうと上気した胸に抱き寄せられたは良いが、不自然に腰を屈めているものだから、無理な体勢になって首が痛い。
君ね、離しなさい、と訴えてもグラハムの腕は緩む気配なぞ無く、抱き締められる腕に力は込められるばかりだった。
「……グラハム?」
「……る、」
もう、寝る、
と、そう言っただろうか。
「眠いのかい?」
「…ねむぃ…ねかせろ」
とてもセックスする余裕は無さそうだ。
なら離しなさい。離してくれないか。
「なら、離して……って、ちょっと、君……!」
あ、と思ったときには遅く、僕はグラハムに引きずり込まれるようにベッドへダイブした。
二人分の体重を支えるマットレスが大きくぎしりと軋んで鳴く。
ほぼ横抱きに、丁度ロングピローを抱えるような体勢に似ているのだろう、そう僕はまるで抱き枕よろしくグラハムの胸元に頭を抱きこまれていた。
「……君も、」
いっしょに、と唇の動きを見ればそう囁いたようだ。
見境無く溺れた滑らかな肌、何度も存分に貪った唇から吐かれる呼気(酒臭いのも愛嬌に思えるのは惚れた弱味か)、整った鼻梁だとか瞳だとか、淡く震える睫毛だとか綺麗な額だとか、癖のついたブロンドだとか、長い間愛してきたものが僕の前に晒されている。
眼前にして、それでも手が出せない…というよりも出す気すら無くなってしまうようなこの状況に、いったいどういう拷問なんだと溜息をついた。
何だかこんなときばかりは、グラハムがほんの小さな子供に思えてくる。
…嗚呼そうだね、流石に犯罪だろうねぇ、子供に手を出すのは。
もう彼は27歳にはなっていたはずだが、全く予想外に、時には予想通りに、それでいて想定外に可愛いことをしてくれるものだから、本当に性質が悪い。
きゅうきゅうと僕を抱き締め頬をすり寄せて、手慰みのように僕の髪に指を絡めて弄ぶ。
それからゆっくりと瞳が開かれて、覗いたグリーンアイズが揺らめいて、
「……おやすみ」
と一言。
そう微笑み、衣擦れの音をさせて少し伸び上がると、
…………僕の額に、キスを一つ。
「っ……グラハム?」
今、君、何を。
「……いつも君にされるばかり…で…は、癪だから…な」
ゆるゆると、余程眠いのだろう途切れ途切れにグラハムは言う。
そして、
「この体勢にならないと…私が君に届かな…のも、……腹立たしいが」
だが、勘弁してやる。
と、グラハムは悠然と笑うと、呆気に取られる僕なぞ気にも留めず再び瞳を閉じた。
本当に、眠かったらしい。
もう少し自分が若かったら、きっと見境無く襲っていた。
彼の明日のことだとか、体への負担だとか、ローションやスキンの用意も考えず、きっと思うがままに手酷く抱いていた。
こんな姿を晒されて優しくなんてできない。
そんな余裕は瞬く間に無くなってしまっただろう。
「……っ……カタギリ……」
眠いだろうに、大分重たくなった瞼を閉じたまま、グラハムが僕を呼ぶ。
嗚呼、もう寝てて良いよ。
ジャケットも、ボトムも、シャツも、タイも、何もかも、脱がせてあげたし外してあげた。
もうそのまま、素肌のままで眠りなよ。
……ごめん、君にナイトウェアを着せてあげる気力がもう残ってないんだ。
真っ白なシーツの海にたゆたって、白い肌とブロンドを預けて眠りこける彼の姿はまるでどこぞの国の王子様だ。
厳ついながらも美しい機体と純白のパイロットスーツから解き放たれ、カタギリ、と時折僕の名を呼ぶ彼はいったい何を夢見ているのか。
……まぁきっと、あのモビルスーツのことだろうけど。
どうせガンダムのことだろうけど。
ベッドに二人横抱きでぴたりと重なって、僕は腕を伸ばして彼の背中から腰まで、そして丸みを帯びた部分を通って、……まぁ、奥を、探った。
我ながら手癖が悪いねぇ、僕も。
とうに夢うつつの王子様は僕の指に嫌がる素振りを見せることも無く、存外すんなりと受け入れてくれた。
というよりも、日常的に慣れ切った行為が別段眠りを妨げることも無かったのだろう。
……それも、褒められた事じゃないねぇ……。
嗚呼、駄目だこりゃ。何やっても起きないね。
僕は諦めて、悪戯を止めた。
もう本当に、僕以外の誰も、この姿を目にすることがありませんように。
伸び上がってわざわざ額にキスだなんて、僕への当て付けか。
だからって、そんな君ね、わざわざ…ねぇ。
ベッドに引っ張り込んで、ぴたりとくっつくように寝て、それでも伸び上がって、だなんてそんな。
嗚呼もう、
……予測不能な人だよ、本当に。
観念した僕は、ブランケットを巻き添えに王子様を一抱え。
もうこのまま。
抱き締めて、ずっと君を見ていよう。
END
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タイトル元ネタは某アイドルのアルバムのタイトルから。
花言葉で、BUTTER CUP=無邪気さ、 MYRTLE=愛の囁き となります。「無邪気な愛の囁き」。
あの身長差はでこちゅーがし易そうだと思った(笑)。