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2024/11/24 00:27 |
コーリング・ユー(2227 another story) (1) (ビリグラSS)





コーリング・ユー(2227 another story) (1)  (ビリグラSS)

*注・三次創作です*





■原作/ししまさま+ヴェーダ
■cave canem さまの「2227」(memo)の設定を元にしたお話です。(三次創作になります)
■22ギリ×27グラ、その後の二人、ぽい感じ。
■神に誓ってビリグラですが、グラビリっぽいです。
■ひみつ本版に加筆修正を加えています。
 
パラレルも三次創作も大丈夫だよーという方は、つづきからどうぞです。
機会を下さったししまさん、ありがとうございましたー!!
(長いので2回に分けてUPです)



*****************************************












コーリング・ユー(2227 another story)  (1) (ビリグラSS)













 
 
 
 
 
……嗚呼、
僕は随分と滑稽になっていやしないだろうか。
 
 
 
 
 
ハム先生、と呼ばれるその人は僕の幾分的を外れがちな審美眼を持ってしても、恐らく麗人と言ってしまって良いのだろう。でも麗人だなんていくらなんでも言い過ぎだろうか、なら美男でどうだ、シンプルに男前でも良いかな。
勿論ハム先生、というのは彼の生徒が親しみをこめて呼ぶ名だ。
 本名はグラハム・エーカーと言って、彼は僕が通う大学院の近所の高校で教師をしているのだそうな。
グラハムとなかなかにドラマチックな出会いを果たしてから、一月ばかりが過ぎただろうか。その後も僕は、成り行きのまま誘われるままに彼と数度のデートを重ねているけど、彼についてあまり多くを知らないままだ。
 
初めて出会ったあの日、この公園のベンチにへたり込む僕に向かって彼は、私のことを知って欲しい、というような旨を僕に告げた癖に自分のことをあまり話そうとはしなかった。僕が得た彼の情報は携帯端末に登録させられた連絡先とバースデー、そして会う度に語られては更新される彼の教師生活における武勇伝の数々だ。
さるご令嬢を誘拐犯から見事奪還しただの、凶悪な不良生徒と拳を交わして大立ち回りの末に更生させただの、それらは僕にしてみれば少し突飛な話ばかりだった。とは言えそれは学校での、若しくは生徒絡みでの姿であって、プライベートな時間での彼について語られることは未だ無かった。
 その代わりのように僕は僕自身の休日の過ごし方や、生活パターンについて情報公開を求められた。
何やら物々しい言い方だけれども、それはグラハムがそんな言葉をセレクトするからで、要は休日に何をしていたんだというような、極々一般的な会話だ。
 
そして彼は何故か僕の周りの人々について良く知っていた。
僕の所属する研究室や同級生達についての情報から、果ては恩師であるエイフマン教授や軍人である叔父のことまで抜かりなかった。MS開発の第一人者であるエイフマン教授についてはともかく、ユニオン軍司令である叔父について瑣末なことまで一介の高校教師が耳にしているのは、やはり妙だろう。
 それでなくとも、彼の軍人めいた言葉遣いや、初めて出会ったあの日の僕を悪漢から守る際に披露した見事な身のこなしに、流石に彼はただの教師じゃないなと疑問に思っていたのだ。
何気なく、それでいて何かを探るように彼が会話の端に上らせる一般的な教師らしくないそれらの言葉の数々に、調べて来たのかい?と遠回しに興信所の存在を訊けば、君への恋心の前には造作も無いことだよと、僕はいつもはぐらかされてしまう。目を細めて僕に顔を寄せながら、低く艶めいた声で謡うように彼はそう囁いてみせるのだ。
相変わらずの彼の顔の近さに僕の心拍数が急上昇するのはどうしてだろう。
 鼻先近くの距離から頬を撫でてくるように触れる彼の熱い吐息や、体温が高い所為なのだろうじんわりと伝わる熱は、僕をいつだって混乱させた。小さな子供みたいに癇癪を起こせたらどんなに良かっただろう、けれど僕はもう大人なので彼の振る舞いをやんわりと微笑みながら受け入れ、スマートに流そうと試みようとするものの、ひとたび赤面すれば上手く言葉が発せなくなってしまうのだから世話が無い。
何度こうした彼のからかいを経験しても慣れるものではなく、その度に顔を熱くさせて俯く僕に、グラハムはいつも言った、君は可愛いなぁと。彼のからかいは止まらず、酷くなる一方だ。顔を近づけないと喋れないのかと素朴な疑問をぶつけてやったけれど、それも僕への恋心故という、意味の取れない回答が寄越された。
からかうのもいい加減にして欲しい。
 けれど、性質の悪いジョークとしか言いようのない彼の熱烈で少々常軌を逸したラブコールも少しずつ可愛く思えて来たのだから不思議なものだ。これに関しては、少々慣れたのだろうか。(勿論ラブコールは冗談だろう、本気なわけが無い。だって大っぴらに言うものでもないし)。
 
それにしても、彼ばかりが僕のことを知り尽くしているのは妙に居心地が悪い。対して、僕は彼のことをほとんど何も知らないのだ。いつも僕ばかりが質問攻めにあっているねとデートの度にそれを指摘してやれば、彼は僕の機嫌を取るようにカフェでデザートメニューを取り寄せては追加でオーダーしようかと微笑みながら僕に見せ、またある時は、五番街の角の僕行きつけの店の限定ドーナツを進呈して来る。
 
はぐらかされている、とやはり感じるものの、何でも君の好きなものを選んだら良い、だなんて極上の笑顔と艶めいた声で囁かれてその度、僕はどうしたら良いのか解らなくなってしまうのだった。
 
 
 




 
 
 
 
――新着メール・0件

 
「……今日は来ないのかな、」
携帯端末の透過モニタに表示されるのはサーバーを通した素っ気無い回答で、それがほんの少し僕を気落ちさせた。
こうして木陰のベンチに腰を据えてこの小さな端末を弄り始めてから結構な時間が経過している。端末の時計の表示を見てまた息を着く、まだ新着メールは無かった。
僕が待っているのは、グラハム・エーカーからのメールだ。
親指を何気なく動かしキィを操作してメールの受信フォルダを開けば、透過モニタに表示される差出人の項にはグラハム・エーカーの名がおびただしく羅列している。グラハムからしかメールが来ないのかとも思うが、これは彼が定期的に複数のメールを寄越してくるからで、決して僕に友人が少ないからじゃない。
 メールの受信の時間は午後三時から五時に集中しており、また間を空けて日付の変わる頃にまた一通、と何か法則性でもあるのだろうか、時間帯は凡そ確定していた。その彼からの本日分のメールが珍しく未着のままなのだ。
たまにはこういうこともあるのだろうか。けれど、つい何度となくメールチェックをしてしまう自分がいて、彼に毒されているんだなぁと嘆息した。
 
 
僕の日常は彼と関わりを持ってから、少しずつ変化を遂げつつあるのかもしれない。
 
僕の毎日といえば研究室と自宅の往復、そして友人達と研究論を交わすこと。
 そしてお互いに数年スキップした末に奇跡的に出会ったあの子、クジョウを視界の端にいつも探しては、たまに交わす他愛の無い会話に浮かれていた。赤く煌めいた彼女の豊かなポニーテールが揺れて、こちらを振り向き見せてくれる笑顔に胸の中が温かくなっては元気が出た。
 嗚呼、こういうのが恋ってやつなんだなぁ、胸が痛くなるって本当だったんだなぁ、と少し幼いかもしれないがそれなりに学生らしい毎日を送っていたのに、その日常の中に彼――、グラハムと過ごす時間が少しずつ浸蝕して来た。彼からのメールでごった返す受信フォルダ等は、既に占拠されてしまっていると言って良いだろう。
 
グラハムは何故か、僕が数年来秘めているこの幼い恋心を知っていた。
初めて出会ったあの日、僕のことなら知っていると手始めに挙げた僕に関する情報には、クジョウのことも含まれていた。そして彼女を憎からず思っているのだろう、と。
 
――嗚呼思ってるよ、今でも思ってる。
 
真っ直ぐな瞳で夢を語り、教授陣を圧倒する理論を持ち、戦術予報士になることを夢見る――、否それは近い内に夢が夢ではなくなるのだけれども。憎からずだなんて、そんな程度じゃなかった。確かに僕は彼女のことを………。
それなのに、僕ときたらここしばらくは彼女を目で追うよりも白衣のポケットを探ることが多くなった。
 ポケットの中から手のひらに納まる白く小さな機械の塊を取り上げ、透過モニタを開いては新着メールにうんざりし、受信履歴に溢れるグラハムの名前に嘆息してから一つ毒づくのだ、飽きもせずに良くやるよ、と。
 毎日届く、数通ものメールが少々煩わしかったのは事実なのに、それが今では一向に届かない彼からのメールを待ち侘びて嘆息している。
クジョウを目で追っては一喜一憂しているときよりも僕は、もっとずっと深い溜息を着いているのだ。

 
「………僕は何をやってるんだろ、」
 
 
 思わず零れた僕の言葉は明らかに不機嫌だった。思っていた以上にかなりイラついていたらしい。
グラハムは何をしているのだろう。そしてそれ以上に、僕は何をやっているのか。
 研究室へ寄りはしたが、エイフマン教授への諸々の報告も最低限に止めて終了させ、脇目も振らずにグラハムと最初に訪れたこの公園のベンチに辿り着いた。そして長々と居座ったまま飽きもせずやっているのがこのメールチェックだ。我ながら良くやるよ、全く。
僕は整えられた芝にサンダルのかかとを押し付けてはそこここを乱し、目茶目茶にしていた。無意識にやっていたようで、足元に落とした視線で芝の惨状を知る。むき出しになった土で芝が僅かに汚れ、ひしゃげた緑が僕のサンダルの下で息を潜めているようだった。
 手近なものに当たるなんて、まだ僕にもこんな子供っぽい所があったのか。
 そして僕は再び、携帯端末に視線を戻した。
 
十数回…、否、数十回だろうか。
 この約一時間の間にとにかく沢山操作したから、あまり手元を見ずとも僕の親指は正確に小さな携帯端末のキィを打ち込んでは、新着メールの到着を確認させた。親指で左に二回、上に三回、それからフロントのキィを二回…、三回目をタッチ。されど相も変わらず届くメッセージは「新着メール・0件」という何とも素っ気無い一行だった。
 
 
――来ない。


 グラハムからの定期連絡が、今日に限って来ない。端末の時計表示を視界に入れる。いつもならこの二時間ほど前には数件到着するはずの文面が一向に届かないままだった。
 いつも到着するはずのそれは、用件のみの素っ気無いものから、十数行に渡る浮かれた内容に渡り、放課後のデートの可否をたずねて来るのようなものまで様々だ。
「…………、」
 もう一度、と操作を繰り返すが駄目だ。更にもう一度……やっぱり駄目だ。
 欲しい返事はこんなものじゃない。
 なのに透過モニタは無機質にメールの未着を僕に告げ、数秒の後に消えて足元の芝に溶けた。
 嘆息して、僕はずり落ちた眼鏡を中指でぐいと押し上げる。珍しく短時間に何度もキィを操作して酷使した親指が少し痛かった。

僕はどうかしているのかもしれない。

 メールの一通、それも必ず届くと確定されたわけじゃない。定期連絡だなんて言葉の綾で、ただグラハムが勝手に毎日飽きもせず僕宛のメールを寄越して来たわけで、僕らはメールを交わすことについて何の約束もしていない。そもそも、彼は僕に毎日必ずメールを送るとは一言だって言っていないじゃないか。
 午後三時から五時の間のメールの一通や二通、送れない日もあるだろうし、そもそも彼が僕にメールをする義務は無い。そんな状況下でメールがたかだか一通届かないくらいで、妙な不快感を感じることも無いじゃないか。
 なのに。

「……来ないなぁ…」

 僕は思わず零した。メールのたった一通、届かないとなると急に不安になるのは何故なんだろう。
 本当にどうかしている。
いつしか受信フォルダから保存フォルダへと宝箱に移し変えるみたいに大事にしては、日に何度となく眺めていたクジョウからの他愛のない事務連絡のメールの文面(それも直近のものは先月だ)よりも、携帯端末の透過モニターいっぱいに表示された、受信フォルダを埋め尽くす彼からのメールの文面の方が気になっているだなんて。
 そして、彼からの定期連絡を心待ちにしているだなんて。

「………ッ、」

 本当に、僕はどうかしちゃったんじゃないだろうか。
 
 ねぇ、どうして、

 
 
 どうしてメールをくれないの、
 

 
 
「……グラハ……」
 喉からひねり出すように出た声は思いの外にか細い物で、それから僕は喉がカラカラに渇いていることを知った。無理もないか、この公園に到着してから結構な時間が過ぎている。
 研究棟近くのラウンジにいれば誰か知り合いの目に付くのは明らかで、こんな風に携帯端末片手に一喜一憂している姿なんて、僕は誰にも見られたくなかった。彼女…クジョウにも、カティにも、誰にも。
 昨日も僕はこんな風に、携帯端末片手にグラハムから寄越されたメールに返信するべきか否かで悩んでいた。返信の内容にも迷うような熱烈な文面のメールを寄越されて、どうしろと言うのだろう。ラウンジで数十分も携帯端末片手に眉間に皺を寄せているのだ、難しい研究だろうかと周りは声を掛けてきたが、その中で唯一、まるで恋わずらいのようだ、と笑いかけてきたのはカティただ一人だった。
 僕がいつぞやの救世主であるグラハム・エーカーと、一度のみならず数度に渡るデートを重ねていることは誰にも言えないままだけど、携帯端末を覗き込む回数が増えたことをカティは目ざとく指摘しては、恋わずらいだと揶揄した。
僕がクジョウに恋をしていることをカティは早々に勘付いていたようで、以前にも手元の端末を覗き込む僕に、そんなに気になるならあの子にメールを送ってあげたらどうかしら、返信としてならば貴方にメールが届くわよ、と微笑んでからかったのも一度や二度じゃなかった。
でも昨日の僕は曖昧に笑うだけで、クジョウへのメールを勧める彼女に、これは違うんだよとは言えなかった。だってそうだろう、僕が見ているのは気になっているはずのクジョウからのメールじゃなくて、彼からの、
グラハムからのメールの文面だ。
 ぶっきらぼうにたったの三行で簡潔に放課後僕を迎えに行く旨を伝え、デートを経て日付の変わるほんの少し前と明くる日には、愛しい君、と何度も書き綴った熱烈な口説き文句が十数行、数十行に渡って躍り出る浮かれた文面だ。
 嗚呼やはり帰したくなかった、朝まで君を離すべきではなかった…! 等と物苦しくしたためたかと思いきや、聖職者にあるまじき行為はできないとたった一通の中で冷静に己を律するという存外に忙しい精神状態の文面だ。そして出会ってそれなりに日数を経た今はそれが受信フォルダに溢れて浸蝕しては、僕の心も占めているのだ。
きっと彼は書きながら酔っているんだろう、技巧を凝らせた文面を思案しては打ち込んで、何度も推敲しては悦に入っているのかもしれない。
彼はどんなときに僕にメールを寄越して来るのだろう、授業が終わった後にすぐ? 
確か担任を受け持っていたはずだから、HRの後だろうか。
どんな顔をして僕にメールを打つんだろう。
にやけた顔を晒せて、ハム先生何やってるんですか、と生徒から指摘を受けることもあるかもしれない。想像したら少し笑えた。
手のひらの中の小さな塊は未だ彼からのメールを伝えることは無かった。着信もまた然り。
僕は思わず嘆息した。
 



 
 
―――そう言えば、今までに僕から彼に連絡をしたことはあっただろうか。














NEXT







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2009/02/15 01:06 | ビリグラSS

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