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2024/05/19 15:03 |
NIGHT IS OVER (ビリグラSS)


NIGHT IS OVER   (ビリグラSS)






夏コミ用ペーパーに記載したSSの加筆修正版です。
つづきから、どうぞです。




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NIGHT IS OVER   (ビリグラSS)










 
 
 
 
僕らは一般的とは言いかねる地点からスタートを切ってしまったものだから、
最初こそ意思の疎通というやつに少々苦労もした。

MS開発担当の技術者とそのテストパイロットという、ごくごく普通の出逢いを果たした僕らは、
少々の番狂わせを生じさせていつの間にか大っぴらには言えない関係を追加してしまった。
予測不能な彼の行動は、職場のみならずプライベートでまでも僕を翻弄したのだが、どうしてだか彼の隣は居心地が良く、僕は諾々とこの怠惰な関係に時間を費やしていた。

 互いの事を良く知らないままに重ねるセックスで判明したのは、グラハムが意外にも噂程には華やかな女性遍歴を持つ人ではないということ。そして僕らの持ちうるベッドマナーには些か隔たりがあり、
まずはそれを擦り合わせることから始まった。
グラハムは華やかな容姿のままに艶やかな花を渡り歩くような人だと思っていたのに、直に接する内に知った彼の本当の姿は、意外にも古風で真面目だった。MSに関する面ではエキセントリックな人だから、ベッドの上でもさぞ個性的なのだろうという僕の予想は大きく外れ、実際は拍子抜けする程にごくごく普通で、情熱的なのはともかくごく普通の、慎ましいセックスを好むのだった。
 
 
今夜も僕らは当たり前のようにベッドで体温を分け合って、交代でシャワーを使ってまたベッドに二人潜り込んだ。向き合うのではなく背中合わせで眠り、時折背中越しに伝わる彼の背の感触も今は慣れたことだった。
 こっちを向いてくれないの、と聞けば耳を付ける位置が決まっているとか何とかで、何かと理由を付けては僕の方を向いてくれはしなかったから、気にすることもやめてしまっていた。
けれど、急に背骨に感じる違和感に振り向けば、グラハムが神妙な顔で指先をこちらに向けていた。感じた違和感は背骨を上から下へ何かが這うような感覚で、もしや何か虫でもとゾッとしたのだが、
その正体は彼の白く骨ばった指先だったようだ。
 背中に感じたむず痒さに身を捩って、僕は寝返りを打って彼と向き合った。
 ざ、と鳴るシーツの衣擦れは僕の髪が打つ音も追加させて些か大仰なものになった。

 
「君、何してるんだい?」
 

 僕は相変わらず不可解な彼の行動の理由を問いかけたが、彼から返るのは骨が出ているな、などと言う良く解らない物言いだった。
出てるって何が、嗚呼だから骨だよ君の、という問答が数回続いて帰結したのは僕の肉付きが非常に悪いという点で、有事に備えてもっと肉も筋肉もつけたまえ、という彼からのアドバイスだか小言だかお節介だか、そのどれかにカテゴライズされるだろうものが追加された。
 僕らは相変わらず色気も甘い言葉も無くて、ベッドでの行為の最中もその後も、ずっとこんな感じだ。
上にばかり伸びて横への配慮を欠いた僕の体は薄く、子供の頃には棒切れのようだと揶揄されたこともある。それこそ三度三度の食事を忘れて研究に没頭していた学生時代ならばともかく、今や軍属になってからは健康管理には気を遣うようになって、少しはマシになったはずだ。
 グラハムを、皆を送り出して必ず帰ってくる物を作る為に僕がしなければならないのは、まずそこからだったから。
 そりゃあ確かに、フラッグファイターのしなやかな筋肉と比べられちゃ見劣りするだろうけれども。
見つめてくる深いグリーンアイズは面白くてたまらないものを見つけた小さな子供のように輝いては、次に僕のどこに指を這わせようかと、くすぐってやろうかと狙いを定める。
 だが伸ばす手はことごとく僕に弾かれ、ほんの少しだけ彼より長い僕の指は難なく彼の手を封じることに成功した。不服そうに歪む彼の口元に僕はキスをして、仕返しだよと一言告げて、彼の両手を封じた左手はそのままに、右手を彼のわき腹へ潜らせ中指で軽く掻いた。

こんなときの僕らはまるで子供だった。

子供がじゃれ合うような、それでいて慎ましやかなセックスを交わしてはそれに浸り、時にはこうして彼の手を封じてくすぐり、悶える彼に嫌がらせのようにキスの雨を降らせてやる。
 そして僕は彼から、嗚呼解った降参だカタギリ、と笑い声と情事の際の艶めいたそれが混ざり合ったその声を引き出してやろうと、躍起になってしまうのだ。
笑いを含ませた彼の声は酷く愛らしくて、低く艶めき怒号を混じらせるような、いつもの基地で耳にするそれと比べれば何倍も子供っぽくて、幼い。
 そして僕はそれを耳にし始めてからの月日を割り出したけれども、僕らが出逢ってからの月日から見れば確かにそれは短く、僕は耳にやっと馴染んだ彼のこんな声をまだまだ聞き足りていないと思った。
 その度に僕は彼の過去、こんな声を聴いた女性は何人いるのだろうかと思った。
 彼はどれ程他人の肌を知り、そしてまたどれ程の人が、彼の肌やこんな風に笑う声や表情を知るのだろうかと。

 ベッドの上でも互いの過去を形成する癖のようなものは出るわけで、グラハムについて言うならばそれは、僕の長い髪に触れたがることだろうか。
 嗚呼、ほら敷いているぞ、とグラハムは笑い疲れたのか、幾らか息の上がった声でそう口にすると、手首に絡み付いた僕の手を外させ、僕にシーツに付けた肩を上げるように促した。
 それからそこに敷いていた毛束をすくうと、そのまま唇を落とした。

 グラハムは癖の無い、真っ直ぐに伸びた僕の髪をお気に召しているようで、こうして僕の隣で身を横たえ情事の余韻を楽しむ間も髪を一筋すくっては唇を落とし、いつも愛おしそうに瞳を閉じるのだ。
 手慰みのように髪に触れ優しく撫でる感触は至極穏やかで、じんわりと胸の奥が温かくなるようなものを僕に植え付けた。
 それから僕の肩先に頬をすり寄せては、汗の引いた冷たい肩を温めるようにしてくれるのだ。
もしかしたら過去に愛した女性の中に、僕のように髪の長い人がいて、こんな風にしていたのかもしれない。髪をすくい、弄び、唇を落とすという彼の優しい仕草は、まるで恋人にするような酷く甘ったいもので、その触れ方はそのまま彼の誠実さを表していた。
僕だって乱暴なセックスはどちらかと言えば苦手だけれども、好奇心のままにやり尽くした若かりし頃の経験があるから今はそんな風に思うわけで、嗚呼そうだ、彼に出逢うまでの僕はその時々で違う相手と互いに楽しむことが前提の、終われば熱が引くまま呆気なく離れるような、そんな関係ばかりだったのだ。
カジュアルと言えば聞こえは良いが、僕が通過してきたのはグラハムのような優しくて甘やかな手も指も要さない即物的なもので、彼に知れたらその潔癖な眼差しで、君は不実だと吐き捨てられ、軽蔑されるかもしれない。
 あれはいつの頃のことだったか、彼の身の内に押し入った際に、あまりに熱く潤む彼の中に発熱した体を思い浮かべた。
 僕がまだそうしたことに対して好奇心のままに行動していた頃に発熱した女性とセックスしたことがあり、体温の高いグラハムが有する体内の感触に思わずこう発してしまったことがある。
 
君は熱のある人としたことがあるかい、君の中は発熱した体みたいに凄く熱くて気持ち良いんだよ、と。
 
 
だが眼下で僕に穿たれるグラハムから返されたのは鋭い睨みと泣きそうな表情で、気分を害させたことに気付いたが遅かった。それから彼は僕に中をえぐられ喘ぎながら、君は発熱した恋人を労る前に平気でセックスするのか、と告げて酷く悲しそうな顔をしたのだ。
交流が深まるごとに僕はグラハムにそんな表情をさせることも多くなり、それから僕は、彼とは通過してきた恋があまりに違うことに気付いた。
そうだ、僕はこんな風に誰かの髪を愛おしく撫でてやることなど終ぞ無いまま過ごしてきて、グラハムのように心を通わせた人を深く慈しむようなことはなかった。その癖僕は、昔の古びた恋をいつまでも引き出しの奥に仕舞い込んでは、時折懐かしむように取り出しては吐息し、思い出に浸るように過ごしていたのだ。
 
 
グラハムの手は酷く優しかった。
 僕の言動が不快にさせることもあるだろうに、いつだって髪を撫でる手の温かさは変わらなかった。
 この柔らかで優しい時間を、彼は今まで愛した女性達に提供し続けて来たのだろう。
 髪を撫でる手付きの酷く慣れた様に胸がチクリと痛むのは、垣間見える過去の女性の姿にほんの少しばかり寂しさを感じるからだろうか。

 僕があまり通ることのなかった、優しい恋ばかりを彼は通ってきたのだろうか。
 だからこんなふうに、優しく触れるなんてことができるのだろうか。
 
グラハムは酷く優しい目をして僕を見る。


 僕の隣に身を横たえ、シーツの上でまどろみながら鼻先近くで数度瞬きしては微笑む。
 髪を撫でるのに飽きたのか、白く骨ばった指先はブランケットを引き寄せ首を温めた。
 それから時折思い出したように僕の鼻先や唇の端に唇を寄せてはそこを撫で、さんざん喘いで少々痛ませた喉奥から発せられるトーンのずれた音は、僕の名前を紡ごうとして失敗し、幾度かむせた。


「……ごめんね、」


 昨夜は無理させちゃったね、と続けながら僕は、むせる彼の背を撫でてやった。
 冷えたそこを温めてやりたくて強めに擦れば、嗚呼大丈夫だ、すまない、と返り、グラハムはやはりむせながら、こくこくと肯いた。



 昨夜の僕は珍しく手心を加える余裕が無くて、性急に彼を求めてしまった。
 グラハムが僕に施し、与える唇も手もいつも泣きたいくらいに優しいから、こういうのがお好みなんだろう、と倣うように優しくしていたのに昨夜はそれが上手くできなくて、戒めていたはずなのに少々無理をさせてしまったのだ。

 口から零れた僕の謝罪にグラハムは少し笑って、君の所為じゃないさ、とやはり掠れた声でひっそりと答えた。君の所為じゃない、そう言ったはずなのに彼は、手指に僕の髪を絡めると、クイと強めに引っ張りだした。

「……っ、ちょっとグラハム、」

 相変わらず幼い子供のような悪戯好きな手だ。
 
痛いよ、と僕は弄ぶ手を制そうとそれに手を重ねて再び封じてやった。
 だのにグラハムは不遜に笑って僕の手の甲に唇を落とし、そのまま関節に僅かに歯を立てた。

「…グラハム、」

 名を呼んでやればちらりとこちらに視線を送るだけで、彼はそのままレディにするように重ねた僕の手を恭しく取り直して握った。
 その仕草に僅かに浮かんだ疑問は沸き上がる愛しさで塗り潰され、僕は頬の緩みを感じていつものように困ったな、と呟いた。
 
 
 
そんなふうに優しくされたら、僕は何度でもつけ上がってしまうよ。
 君の望むように優しくしたいのに、できなくなってしまうよ。
 
 
 
そんな僕の心の内とは裏腹に、グラハムの唇は僕の手の甲で一つの言葉を結んでそれから、深く笑みを刻んだ。

 
「……もぅ、知らないよ」


僕は苦笑して、求められるまま彼の手に堕ちた。
 
 
 
ねぇグラハム、お願いがあるんだよ。
どうか僕に優しくしないで欲しいんだ。
 
 
 
いつだって彼を大切にしたいのに、僕はそれが上手くできた試しが無くて。
彼が僕にくれるのと同じように、深く優しく愛してあげられる保証なんか、
 どこにもありはしなかったんだ。


 嗚呼そうだ、と僕は何度でも反芻する。
 調子の良いことに、僕の右脳も左脳も肝心なときにはまるで役立たずで、何度も何度も繰り返し思考しては疑問を残しつつもジャッジした答えがそこにあるのに、いつまでもそれを選べずにいる。


 
そう僕はいつだって、彼を手離すことを考えていたんだ。
 
僕の手にはどうしたって余って仕方の無い、この高潔な男を一人。













END








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タイトル元ネタはTMGEからなのですが、実際にイメージしていたのは同曲でアレンジ違いの
「夜が終わる」の方だったと気付いたのは夏コミ後でしたorz
夜が明け切る前の静寂に響くような、綺麗な綺麗なピアノ曲です。


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2008/12/01 01:34 | ビリグラSS

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