Forever Yours (ビリグラSS)
時期に合わせてクリスマス的ビリグラSSです。
ですが、特殊設定なので大丈夫な方のみどうぞ。
元の設定は雑記の「老後のビリグラ」という二人の退役後・共白髪妄想です。
ロマンスグレーとプラチナブロンドになっても、二人仲睦まじく生きていただきたい、
そんな願いを込めて。
つづきから、どうぞです。
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Forever Yours
イタリアで二人でナターレを迎えるのを楽しみにしていたが、
今年は僕の都合で例年通りに家で過ごすクリスマス休暇となった。
今年は僕の都合で例年通りに家で過ごすクリスマス休暇となった。
まさか今更シンポジウムへ駆り出されるとは思わず、今は母校で教授となった後輩の顔を立ててやるつもりでゲストとして講釈した。
三日間に及ぶそれは最終日がクリスマス休暇に食い込むという変則的日程であり、そして僕自身は最終日
のみの参加なので正確な判断は出来かねるが、壇上から見渡した会場内に空席がそれ程見当たらなかったことと、後輩の言葉を鵜呑みにすればなかなか盛況だったのではないだろうか。
閉会後のパーティーでは乾杯の挨拶をと促されたが丁重に断り、シャンパン一杯分だけ付き合い、ちらほらと求められるサインもそこそこに応じて適当に出てきた。
どうやら僕は後輩が用意したスペシャルゲストという立場だったようだが、若き日にMSWADで体験したMS絡みの話は充分過ぎる程にして来たのだからもう良いだろう。
まぁ、話せない内容の方が多いのだけれども。
本当ならば今頃イタリアの空の下、二人でパネトーネを頬張っている頃だろうか。
ドライフルーツがぎっしりと詰まった甘く芳醇な香りに、きっと彼はナターレ当日まで待てないからと味見と
称してまずは一切れ食べては僕に勧め、そして瞬く間に二人で食べ尽くす。
もう一つパネトーネを買う羽目になるだろうな、とそこまで想像して僕は破顔した。
称してまずは一切れ食べては僕に勧め、そして瞬く間に二人で食べ尽くす。
もう一つパネトーネを買う羽目になるだろうな、とそこまで想像して僕は破顔した。
イタリア行きの日程をずらせば良かったのだが便のキャンセル待ちも叶わず早々に諦め、シンポジウムを
除けば例年通りの休暇を選んだ。
除けば例年通りの休暇を選んだ。
まさか直前で後輩に泣き付かれるとは思わなかった。
ゲストが捕まらないのは妙な日程を組むからだ。
ゲストが捕まらないのは妙な日程を組むからだ。
後輩は僕の著作の推薦文を書いてくれたこともあったので無下に断ることも出来ず、しかしグラハムは勝手に僕の出席の旨を伝え、あれよあれよという間にシンポジウムへ参加することになってしまったのだ。
グラハムとのイタリア行きを見送るのは非常に惜しく心苦しかったが、快く行って来いと彼は笑顔で送り出してくれた。そして、
私はレティシアとデートだから、帰って来なくても良いぞ、
とも。
レティシアというのは僕らが懇意にしている隣家の女性で、彼がお気に入りなのか何かと理由を付けては我が家に入り浸っていた。
ただし、3歳児だが。
レティシアというのは僕らが懇意にしている隣家の女性で、彼がお気に入りなのか何かと理由を付けては我が家に入り浸っていた。
ただし、3歳児だが。
グラハムと同じグリーンアイズを持つ笑顔の愛苦しい子で、蜜色の巻き毛は若き日に僕の視界の下方でふわふわ揺れていたそれを思い起こさせた。
グラハムをグランパと呼んではハグとキスをせがむ姿は正に天使そのもので、それを満面の笑みで迎えて
小さな体をひょいと抱きかかえ、マシュマロのような頬にキスを落とす彼、その幸せで暖かな光景に誰もが
目を細めた。
小さな体をひょいと抱きかかえ、マシュマロのような頬にキスを落とす彼、その幸せで暖かな光景に誰もが
目を細めた。
そして僕はあどけない少女にまで嫉妬しつつ、彼が最後に戻るのは僕の傍らで、僕の隣こそが彼の居場所であるということに相変わらず優越を感じては、その度自分の浅ましさを嫌悪した。
いつの時代もグラハムのその年齢ごとの美貌は羨望を集めて止まないらしく、加えてあの人柄に彼を慕う者は退役後も増える一方だった。
レティシアとの慣れぬままごとに興じ、あらあらまぁすみません、と遊び疲れて眠る彼女を迎えに来た両親に、いえいえ隠居の楽しみができましたよと笑顔で応じる彼の姿は、そのままもう一つのあるべき姿だった。
彼に子供ができたらさぞ気高くそして愛らしい子だろう、と若かりし頃に思い詰めては悩み尽くし、それでも僕は彼を手離すことができなかった。
レティシアとの慣れぬままごとに興じ、あらあらまぁすみません、と遊び疲れて眠る彼女を迎えに来た両親に、いえいえ隠居の楽しみができましたよと笑顔で応じる彼の姿は、そのままもう一つのあるべき姿だった。
彼に子供ができたらさぞ気高くそして愛らしい子だろう、と若かりし頃に思い詰めては悩み尽くし、それでも僕は彼を手離すことができなかった。
今頃沢山の家族に囲まれるであろう未来を選ばせてあげられなかったことを悔やんでは、それでも、
それでも僕は、彼を手離すことなぞできなかったのだ。
僕はいつだって狡くて、答えを彼に委ねてばかりだ。
それでも僕は、彼を手離すことなぞできなかったのだ。
僕はいつだって狡くて、答えを彼に委ねてばかりだ。
持ち込まれる見合い話を静かに笑って断り続ける僕を見れば、グラハムだって、といつもどこかで計算して
いて、その癖僕は彼に女性のパートナーを得てはどうかと進言しては平手を食らった。
いて、その癖僕は彼に女性のパートナーを得てはどうかと進言しては平手を食らった。
いつの時代も彼は誰からも愛されていて、僕以外のパートナーを作ることなぞ朝飯前のはずだ。
子供は欲しくないのかい、と訊けば子供は苦手だと彼はそっぽを向いて答えた。
子供は欲しくないのかい、と訊けば子供は苦手だと彼はそっぽを向いて答えた。
そんな下手な嘘をついてまで、彼は優しく、僕の最初で最後の我が侭をきいてくれたのだ。
色とりどりのネオン、宝石を散りばめたようなツリー、天使やトナカイのオブジェ、コークメーカーの真っ赤な
ラッピングバス、笑いさざめく人波、スタンダードのクリスマスナンバー。
街中が幸せな色にデコレーションされた姿に、知らず笑みが零れた。
通りを行き交う人の群れを潜り抜け、流石に昔程早くは歩けないかと息を切らす。
鈍った体と、このところの寒さで痛む膝にあともう少しと声をかける。だいぶ冷えてきた。
通りを行き交う人の群れを潜り抜け、流石に昔程早くは歩けないかと息を切らす。
鈍った体と、このところの寒さで痛む膝にあともう少しと声をかける。だいぶ冷えてきた。
吐く息は白く闇にとけ、両手で鼻と口を覆って息を吹き掛ければ眼鏡が曇ったが顔だけは少し温まる。
胃に納めた少しのシャンパンでは体を温めることすらできなかった。早く帰りたい。
――今は人並みに休暇を味わえるようになっただけ良かったのかもしれない。
軍に所属していた頃の僕ときたら、システムのバグや急なデータ解析やMSの整備やらで、どういうわけだか一番呼ばれたくない時に限って携帯電話がコールした。
それが私用ではなく軍支給の方の電話からの着信で無視はできず、かといって腕の中の温もりを尻目にすぐ職場へ赴くのも癪で、必ず10回以上はたっぷりコールさせてから通話ボタンを押すようにしていたが、それを
彼にこっぴどく叱られた。
仕事でお呼びがかかっているのだから仕方がないとて、あっさり離れれば寂しそうな色を見せる瞳を無下に
できずにいる僕に、まさか気付かないわけでもないだろうに。
急な出撃でも無ければ原則的には完全シフト制のグラハムとは、今にして思えばプライベートでは会えない
時間の方が長かったのではないだろうか。
それが今は同じ屋根の下に暮らし、四六時中顔を付き合わせ、つまらない喧嘩も多くなったのだから――、
生憎、私は君一人で手一杯なのだよ、
そう笑って差し伸べてくれた手を、離さなくて良かった。
離すものか。
……と、胸ポケットでバイブレーションが。
嗚呼、グラハムからの着信だ。どうしたんだろう。
「……い」
雑踏の中でよく聞き取れない。少し耳が遠くなったか。
「グラハム、どうしたんだい?」
「………い」
人混みで殆ど聴こえない旨を伝えたらその瞬間、
「遅い!!」
と軽く数百ホーンはありそうな大音量が僕の弱った鼓膜を直撃した。
「遅い…ってごめん、でも僕、今出てきたばかりで…、」
雑踏の中でよく聞き取れない。少し耳が遠くなったか。
「グラハム、どうしたんだい?」
「………い」
人混みで殆ど聴こえない旨を伝えたらその瞬間、
「遅い!!」
と軽く数百ホーンはありそうな大音量が僕の弱った鼓膜を直撃した。
「遅い…ってごめん、でも僕、今出てきたばかりで…、」
キン、と僅かに感じた耳鳴りの気配に眉をひそめながら訴える。
遅いと喚かれたがそれでも最初の30分程度でパーティーは抜け出したのだが。
しかし、彼はデート中ではなかったろうか。
「……レティシアは?君はお隣さんのクリスマスパーティーに出ると言ってなかったかい?」
「私も途中で出てきたのだよ、君が帰るまでには部屋を暖めてやろうと思ってな」
美女の誘いを振り切って来たのだ、感謝したまえ、と続く声に昔と変わらない、得意気に胸張って見上げてくる姿を連想し、思わず目を細めた。
「……レティシアは?君はお隣さんのクリスマスパーティーに出ると言ってなかったかい?」
「私も途中で出てきたのだよ、君が帰るまでには部屋を暖めてやろうと思ってな」
美女の誘いを振り切って来たのだ、感謝したまえ、と続く声に昔と変わらない、得意気に胸張って見上げてくる姿を連想し、思わず目を細めた。
……確かワインはまだあったはずだ、グラハムにはバゲットを切っておいてもらおうか。
この際不格好でも文句は言わない。
彼の心遣いに感謝し、感謝ついでに用事を頼み、少し買物をするからもう少しだけ待ってて、と伝える。
確かあのワインに合うチーズは冷蔵庫に無かったはずだ。
それとグラハムの好きなあのピッツア、あとサーモンも欲しい所だ。
小さなケーキも買って行こう、二人食べ切れるだけの小さな。
彼の心遣いに感謝し、感謝ついでに用事を頼み、少し買物をするからもう少しだけ待ってて、と伝える。
確かあのワインに合うチーズは冷蔵庫に無かったはずだ。
それとグラハムの好きなあのピッツア、あとサーモンも欲しい所だ。
小さなケーキも買って行こう、二人食べ切れるだけの小さな。
街は家路を急ぐ人々に溢れていた。
デコレーションされた賑やかな街も行き交う人々も、幸せな色に包まれる。
そして僕も家路を急ぐ。
人波を掻き分け息を切らし、ショーウィンドウに映る姿はロマンスグレーに時代遅れの眼鏡で大分くたびれて
いるけれども、確かに街中で一番幸せな顔をしていた。
そして僕も家路を急ぐ。
人波を掻き分け息を切らし、ショーウィンドウに映る姿はロマンスグレーに時代遅れの眼鏡で大分くたびれて
いるけれども、確かに街中で一番幸せな顔をしていた。
「――グラハム、」
「どうした?」
携帯電話越しに伝わる声はいつでも僕の鼓膜を甘く震わせる。
愛しているよ、と言いかけて、
「……すぐ戻るよ」
とだけ伝える。
返る声音にまた甘く胸苦しい想いに染められ、僕は昔と変わらず彼のことに関してはひたすら馬鹿になって
いた。幾つになっても、何年たっても、僕は相変わらず彼に骨抜きなのだ。
さぁ、買物を済ませてすぐ帰ろう。
愛する人の待つ家へ。
あの日、彼が差し伸べてくれた手を、
僕は決して離しはしない。
END
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アニメの展開的にビリグラの今後を妄想して本気で辛くて通勤中に泣きそうになり、
二人の幸せな老後を妄想しては書き、勝手に安心を得て「EVEN」(カタギリへのサービス企画)
の続きを書いたのでした。
(「EVEN」より早く書き上がっていたものですが、時期に合わせて本日UPしました)
しかも自分だけが楽しい老後ネタです。ごめんなさい。
まさかこれでSSを書くことになろうとは………orz
PR
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