ハピネス (ビリグラSS)(拍手再録)
拍手用SS再録です。
つづきから、どうぞです。
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ハピネス
髪に、額に、耳朶に、頬に、鼻先に、わざと唇の端に、顎に、そしてこめかみに。
軽く唇を押し当てて目を合わせ、そっと微笑む。
その恥ずかしい有様に、耐え切れなくなって互いに吹き出すのはほぼ同時だ。
いい歳をした大人が何をやっているのかと思うものの、とろとろに溶け切った甘い思考が僕の中に染み渡る。
「……本当に何やってるんだろうねぇ、僕らは」
「全くだ」
「恥ずかしいね」
「…大いにな」
「主に君が」
私じゃないだろう、君と一緒にするな、等と視界の少し下から結った髪をぐいと引っ張られる。
「…ッ! 酷いな君、髪が抜けてしまうよ」
「伸びるのが早いんだ、問題は無いだろう」
「…あーあ、もぅこんなにブチブチと…! 禿げたら責任取ってくれるかい?」
「責任? 嗚呼、生憎だがそれは私の範疇を越えているな」
軽口を叩き合う人がいて、共に食事をし、酒を飲む。
話題は特別なことでなくて良い。
それは今週のカフェテリアのメニューが最悪だとか、
どこそこの部隊の事務方にとびきり美人がいるだとか、
あのアーティストの新譜が良いだとか、そんな他愛の無いことで。
隣で笑う人がいる、ただそのことに感謝する。
手を伸ばせばすぐそこにある温もりだとか、痛みだとか。
真っ直ぐに見上げてくるグリーンアイズが愛しくて堪らないだとか、
君とのじゃれ合いが大切な時間だとか、そんなこと。
ただただ当たり前に過ぎ行く日常に感謝しては噛み締める。
それらをいつの間にか手に入れてしまって、実は怖かったのだと言えば盛大な溜息と共に呆れられた。
そして君はあの真っ直ぐな目で檄を飛ばして来た。
失うことへの恐怖だと言うのなら、非常にナンセンスだ。
――なら、手放すことの無いようにしたまえ。
その日常を儚く思うのではない、永遠にしたら良いじゃないか、 と。
その言葉だけで僕が酷く救われたことを、きっと君は理解できるはずもなく。
君を手に入れたこの怖さも、僕は永遠に噛み締めるだろう。
END
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初めての拍手用SS。短い話がどうしても書けなくて、カタギリの独白文になりましたorz
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